『ぶしつ、こないかの』

教室に着いてまず行ったのは朔間先輩からのメールを削除して証拠隠滅を図ったことだった。これでとりあえずなかったことに出来る。というかあの人変換ぐらいしたらどうなんだろう。疑問符だって打てなかったのでは、と呆れてしまう。
久しぶりの連絡だったが、気にすることはないかと一限目の準備をしていたら、やけに獰猛な気配を感じた。私に話し掛けるやつで、そんな異彩を放つのは一人しかいないのだが。

「おい名字、てめぇなんで来なかったんだよ!」
「メール見るのが遅かったの」

嫌なら無視をすればいいのだがそう出来ない中途半端なところが私の悪いところなのかもしれない。
そうこうしているうちに大神が前の席の椅子を拝借して腰掛ける。他の人からの視線が気になり思わず背筋が伸びて、嫌な汗が出てくる。

「おかげであの吸血鬼ヤローずっとお前のこと」
「あらあら、朝から元気ねぇ。おはよう、二人とも」
「おはよう。ごめんね、大神」

救世主が来た。登校してきた鳴上くんに意識がいったところで私は逃げるように立ち上がった。
そのまま言葉を残して教室から出て行く。二人に囲まれるなんて本当に身が持たない。途中で見たあんずちゃんの周りは今日も同じクラスの仲間が囲んでいる。とても自然で誰もが受け入れている姿に、胸が苦しくなる。どうして私だけ、なんて答えてくれる人は誰もいない。

「あ、おい!……ったく、何なんだよ!」

明らかに普通ではない去り方に大神は軽く名前の机を蹴った。最後まで話を聞けと吠える彼を眺めながら、不安そうな鳴上が問う。

「ねえ、名前ちゃんどうしちゃったの?」
「俺様が知るかよ!部活にもすっかり顔見せなくなったし、教室でも孤立してるしよぉ」
「心配だわぁ」
「……お前には話すのかよ」

同じクラスで数ヶ月過ごした彼女の変化に戸惑っているのは彼が事情を知らないからである。不安が多いであろう名前をサポートしていた自称お姉ちゃんポジションの鳴上とは仲が良かったはずである。
そう言えばと大神が記憶を辿ると、当事者は頷くように話し始める。

「話すはおろか、最近では避けられてるみたいで。本当にどうしちゃったのかしら。前はよく笑う子だったのに」
「チッ」

余計な心配掛けやがってと大神は舌打ちをする。目障りだと思いながらも狼は飼い主からの言い付けをしっかり守ろうとしていた。適当なノートの切り端でメッセージ。メールでは埒が明かないことは昨日で実証済みだった。

「あら、何書いてるの?」
「お前には関係ねぇだろ!今日は絶対こいつを連れてくるように言われてんだよ!」

『吸血鬼ヤローからの伝言だ。今日は部室に連れて行くぞ』

机の上に乗せられたメモ書きを名前が破り捨てるのは、この5分後だった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -