リーダーと和解出来たのだろうけど基本的に司くんのスタンスは変わらないように見えた。
今日もどこに行ったか分からない月永先輩探しに翻弄し、成果が得られなかったことへのやけ食いをしているのを私はパソコンで編曲を、嵐ちゃんは鏡で身なりを整えながら話を聞いていた。
授業に出ずにどこかで曲作りなんて羨ましいが真似したら負けのように思える。だから私は今日こそと自身にリミットを付けて、授業が終わってすぐにここへ来た。
そわそわしている嵐ちゃんが笑みを浮かべてこちらの様子を窺っている。曲はもう少しだよと伝えればそっちも楽しみだけど、と本命は別とでも言うような言い方。私は一旦そちらの思考を停止させデータを保存して完全にパソコンから意識を切り離した。
嵐ちゃんの顔をしっかりと見つめて、彼の言葉を待つ。

「この間の凛月ちゃんとのステージ素敵だったわ。さすが想いが通じ合った二人ね!」

両手を組んでうっとりと。司くんが「息がぴったりで素晴らしかったです。聞き惚れてしまいました」と重ねてくれる。私はやり場のない気持ちでそれを聞いていたが正直嬉しくて堪らなかった。
アイドルではないからと遠慮していた舞台で、しかも凛月と立てたことは私の中で一生の思い出となる。

「凛月が打ち合わせなしで上がってきたときには驚いたけどね」
「あら、話してなかったの?」
「演奏準備が出来てすぐに凛月が来たの。その後も私は大神に引き摺られてステージに上がってたし、そういえばろくに話せてないなぁ」

相変わらず昼間は寝ているし教室にだって来たり来なかったりだ。私もどうしたらいいか分からず、今も堂々と凛月に教室で話しかけることが出来ずにいる。
好きであることを諦めるべきなのだからそろそろこの意識しすぎな部分を直した方がいい。
アイドルである彼のために、そして昔みたいに楽しく隣に並べるように。嵐ちゃんに相談でもしようかと思っていたら彼からの質問の方が先に飛んできた。

「ねえ、凛月ちゃんと名前ちゃんは両想いなのよね?」

すぐに答えることはできない。少なくともお互いに特別な存在でずっと気に掛けていることは確かだ。でも、今はどうなのだろう。凛月は私のことが好きなのか。それにしては他の人との態度がちがうような気もする。

「でも凛月、私に血をちょうだいとか言ってこないし。この間紫乃くんにちょっかい出してるのを見て思ったけど凛月は私なんて見てないよ。あんずちゃんに膝枕ねだってるのも知ってる」

私には求めないあれこれ。凛月が他人と距離を置いていて、私にだけはパーソナルスペースに入ることを許してくれて。そんなことを嬉しく思っていたのは離れる前のこと。
私が一人音楽室で籠っている間にも凛月の世界に温かな光を注いでくれた人達はたくさんいる。私には羨ましく思うことは出来ても、その人達になることはできない。

「あらやだ、名前ちゃんったら妬いているのね」
「凛月先輩に構われなくて寂しいのですね」

微笑ましく思っていた会話が二人の笑顔を見て確信に変わる。からかいを含むそれに返すのは大人ぶった対応。自分の口からはまだ言えそうにないけれど、察しのいい嵐ちゃんと司くんならきっと勘付いてくれると信じている。

「もういいの。私はみんなをプロデュースするって決めたから。Knightsも、他のユニットも。もっともっと私も世界を広げていくの」

打ち込みをまた始める。私が色恋沙汰で慌てる様子とか拗ねる仕種でも想像していたのだろうか。
やけにそっけなく切ってしまった凛月の話題に嵐ちゃんの顔がフッと表情を失う。

「そんな……凛月先輩は名前先輩のことを思って、専属にすると仰っていたのに」
「凛月ちゃんの提案は名前ちゃんのためにはならない。私も泉ちゃんもそう思っていたけど、凛月ちゃんの名前ちゃんへの思いを汲んで許可したのよ」

だって気付いてしまったんだ。凛月のことだけを思うプロデューサーなんていらない。こんなに魅力的な人達がたくさんいるのに好きな人だけという理由で特別視するなんて何様だ。そんなの誰も幸せにならない。私は今、もっと大きなことがしたい。たくさんの人と関わりを持ちたい。

「だから、Knightsのために頑張るよ」

今は。私は今は、Knightsのプロデューサーとして認められるためのドリフェスの企画中だから。
自分の口からは勝ってからちゃんと凛月に伝えるつもりだった。専属として傍に置かれても嬉しくない。
そしてこの思いを断ち切るのだ。
諦めるのね、とこぼす嵐ちゃんの言葉に無言で肯定を示す。だってあなた達はアイドルだ。
それでいいのかと顔を見合わせる二人はそれ以上見ないようにして曲に向き合う。
あと少しで完成するから早くみんなに聞かせたい。
自分自身が喜ぶ姿が脳内ビジョンではすでに広がっていた。



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