一番最初に流れたメロディーに、Knightsのメンバーが面食らう様子を見てつい握りこぶしを作ってしまった。
まさか月永先輩以外の曲が来るとは思っていなかったのだろう。完全にノーマークだったようで正体に気付いたように瀬名先輩に睨まれたがピースサインで返しておいた。こんなよく分からない余裕ぶりが沸いてくるのはあのとき月永先輩の手を迷わず取っていれば良かったと思えたからか。
私はもうKnightsに近付くのはやめよう。凛月のことだって諦めよう。
私のためにも彼らのためにもそれが最善なのだ。だからこれは彼らを間近で見る最後の機会。しっかりと今後のために学ばせてもらおう。さようなら、Knightsの皆さん。

「そう言えばこうしてちゃんと向き合うのは初めてだな」

映像でしか見たことがなかったステージ。強敵を前にしても怯まない瀬名先輩と嵐ちゃんが立っている。こちらの手をスマートに暴こうとする姿はさすがであり、攻撃を受けた際にはこちらの乙女心をくすぐるような健気さも持ち合わせている。
気高き美しさ、優雅な佇まい。さらに予測不可能な麗しい策士が加わって、王さま以外の駒が土俵に揃う。
結局私は何も変わっていないのだ。UNDEADに助けられたときも、Knightsにチャンスをもらったときも、全部与えられたものを受け取るだけだった。私自身の気持ちをちゃんと伝えずに、黙っていても分かってもらえるなんて甘い蜜ばかり吸うことに慣れてしまった。
ねえ、月永先輩。あなたが新しいKnightsと向き合うために戻ってきたこと、今分かりました。
マントを翻す司くんの堂々とした姿がとても素敵で、王に相応しい雰囲気を身に纏っていた。
対してリーダーも劣っていないオーラ。対面する二人の喧嘩がとてもストレートで羨ましかった。
舞台袖で見ている私の試合場所はステージではない。そんなこと分かっていたのに待ち切れなくて、私は幕を閉じた後、彼らを労う前にKnightsの元まで駆けていった。

「この前の曲、書き直しさせてもらえませんか」

月永先輩に散々駄目だしされた曲はあの日以来封印されたままでお蔵入りするものだと私も思っていた。
でもまずは一つずつ、新しいものが生み出す前に皆の意見を取り入れてからだって遅くはないはずだ。リーダーが戻ってきて、中心となって、イメージが象られていく。

「月永先輩の位置を含めてやり直したいんです」
「当たり前でしょ」

いたっ、と瀬名先輩から額を指で弾かれた。穏やかな表情で迎え入れられて、私はこんな優しい人達をどれだけ傷付ければいいのだろうと思う。身勝手な押し付けで迷惑をかけて、付き合わせてしまったのに救ってくれるのもまた、この人達なのかもしれない。

「私負けちゃったけど、まだKnightsのプロデューサーをやってもいい?」
「何言ってんの。Knightsは勝ったよ。名前が負けた分はカウントされてないから」

凛月の屁理屈だって否定する理由は私にはない。久しぶりに目を合わせてくれたような気がする凛月の表情は安堵からかすごく穏やかで、新生Knightsの門出に立ち会えたのは私にとっても幸せなことだ。

「もう一回、私にプロデューサーをやらせてください」

負けたとは言え月永先輩の手を取ろうとしたし、そもそも最初にスタジオを出たときに振り払わなかった私は裏切り者同然なのだ。懇願する私の頭に乗った手のぬくもりに泣いてしまったけれど、全然悲しくはなかった。

「おかえり」

瀬名先輩の言葉が浸透していく。心配してくれるお兄ちゃんみたいな人を皮切りに代わる代わる協力の声が掛かる。
司くんが「いくらでもLessonにお付き合いします。私にもご教授ください」と言うし月永先輩が「これからも教えてやるから。何なら一緒に作るか?」と笑うしで私はもう悩んでいるのがばかばかしくなった。こんな素敵な人達だと知ってもなお作れないなんて言えるわけがない。
固執していたイメージを塗り替えてでも形にしたい愛が、ちゃんと存在している。

「凛月、色々とごめん。あのね、」

口に出来なかった不安とか要望とか、言いたいことがたくさんあってどれから伝えればいいのか分からない。くしゃくしゃと凛月に頭を撫でられて、それからそっと私の耳に口を寄せる凛月。

「名前、今度時間をちょうだい。話があるから」
「分かった」

言いたいこと、やりたいことは悔いがないように。
自覚していてもなかなか踏み出すのには時間が掛かるのだけれど。



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