スタジオに帰ってくると専用の寝床にすぐに入ってしまう凛月と、それを叱りに行く瀬名先輩と、快進撃にうっとりと余裕を見せる嵐ちゃん。三者三様ではあるがKnightsのことを分かっているようで私はそんな彼らの不敵な笑みを見ながら、またも机に突っ伏していた。
隣にはぷんぷんしている朱桜くん、もとい司くんがいて、あんずちゃんからの差し入れお菓子でストレス発散していた。可愛い末っ子ちゃんの不満を聞いてあげる先輩達。アットホームな光景に微笑ましく思うも、私の技量はまったく上がっていないことに焦りを感じていた。
連日のライブを企画させてもらっているが、時間がないことは何の言い訳にもならない。
むしろ回数をこなせることによって活かせる点が多いことを誇るべきだ。けれど、満足のいく曲は仕上がらないし衣装だって間に合わない。特別にあんずちゃんにも手伝ってもらっているが彼女の手は出来るだけ借りたくなかった。
頭を抱える私に手作りクッキーが差し出され、有難くひとつ手に取れば目に見えたように彼女は安堵していた。凛月とどうなっているかなんて聞かないし、今言われたら私は参ってしまうだろう。そっと支えてくれるあんずちゃんはやっぱり皆の女神様なのだ。司くんが慕う姿を見ながら私は今日披露してもらった楽譜に目を通す。
暫定とはいえ試してみようと嵐ちゃんが言ってくれて、パート分けしたりダンスを指示してみたりしたがやっぱり型に嵌っていない気がした。このままでは駄目だ。ううう、と呻き声を上げていたら、限界だったようで司くんも他のメンバーにリーダーに対して不満をぶちまけていた。
先日会った王さま、リーダーである月永レオ先輩は最近復学したようだが、Knightsのステージには立っていない。客席に座ってメンバーを眺めている姿は、まるで謀っているようで。

「Performanceに集中できません!」

そうやってやけ食いをすれば嵐ちゃんに止められている司くんについ笑みがこぼれる。
Knightsの立派なメンバーとは言え一年生が頑張っているのを見ると、私もまだまだだなぁと思う。
技術が足りていないなら補うしかない。私は今日もまた音楽室に行くことを決意して、反省点をノートに書き留める。Knightsの曲はすべて月永先輩が作曲しているようで、私のなんて敵うはずがないけれど、そこに食い込めたら変われるかもしれないと思うのだ。

「そう信じたいけどねぇ、せめて俺だけは」

月永先輩が変わってしまったとか私には知らなかったことだ。瀬名先輩が真面目な顔で語るので嵐ちゃんと司くんが心配していたら、突然の窓からの侵入者。

「わはは!話はすべて聞かせてもらったぞ!」

まだ数日しか観察していないけれど、この人も大概変わっているよなぁ。五奇人だと言われても納得してしまう、天才で変人。この学園にはぴったりだ。
慌ただしい様子のKnightsは始めて見るかもしれない。あっちこっちで騒がしい姿を眺めていたら、不意にこちらと絡まる目線。外れないそれに指を刺されどすどすとこちらに近付いてくる。

「あんずから聞いた。ここ最近のプロデュースをずっと見てたけどお前ぜんっぜんKnighsのこと分かってないな」

ぐっと唇を引き結ぶ。この前名乗ったでしょという指摘は出来るわけがない。離れていてもリーダー、素質は十分である彼に言われるのは精神的にやられる。

「あの曲調も、フォーメーションも」
「名前は経験が浅いから何でもやらせてみないと」

耳を塞ぎたくなる追及を破ってくれたのは凛月だった。割って入って王さまから守る背中に触れることはできないけれど、私の力不足をカバーすると言ってくれていたのはどうやら本当で。

「珍しいな。リッツが庇うなんて。まあいい」

そして本題。月永先輩の目的、それはジャッジメントを開催することだった。
断罪するのは、現在のKnights。月永先輩が勝てばKnightsは解散。
これは大変なことになった。誰の話も聞かずに話を進めてしまう月永先輩はもう気にしないことにして、私はあんずちゃんに視線を送る。彼女は頑張れとも頑張ろうとも思える反応で私を安心させてくれる。いくらKnightsが優れていたとしても曲をすべて作っているリーダー相手じゃ、と弱気になる私の肩を支えてくれる凛月は微笑んでいた。
気付けば私は対峙する側の人間で、月永先輩と勝負をするKnights側にいる。
お荷物で役に立たない私も仲間に入れてくれる。一人でいたら見られない世界がそこにはあった。

「楽しみだな」

そう言って月永先輩が目の前に来て、にやりと笑う。
あっという間に引き抜かれた私は彼に手を引かれてスタジオから連れ出された。

「あと、こいつはもらっていくな。今回の俺のプロデューサーは名前にする!」
「は?」

声がハモって、逃げ足の速い王さまはもう誰にも止められなくて。多分凛月であろう珍しい叫びが私達の背中に突き刺さった。
どうして、と疑問を浮かべる私への答えは、月永先輩の奇行によってなかなか返ってくることはない。



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