熱心に通っていた舞踏会はもう閉幕。私の中で完全に幕切れだ。
もう一生行かなくてもいいとさえ思う。光るティアラも煌びやかなドレスも背伸びしたヒールもすべて脱ぎ捨てた。決まり事も守らない私にはもうあの場所へ行く資格がない。
いや、自ら出て行ったのだからそんなもの要らないのだ。

「お前、どうするんだ」

こっそりと薬だけ貰って逃げようとしたら、運悪く佐賀美先生に捕まってしまった。頭が痛くてと訴えれば溜め息を吐きながら勝手に持って行けと許しを得たが、まだ先程の話は続いているらしい。劣等生である私への投げ掛け。課題放置もいいところだと先生は言う。

「そのうち椚先生に怒られるぞ」
「決まってるじゃないですか」

簡単には上手くいかない。私が学んできたのはそういうことだった。一度体験してしまったらなかなか元には戻れない。

「のらりくらりやるだけです」
「名字、お前なぁ」
「じゃあこれ、新曲です。またよろしくお願いしまーす」

譜面の入った封筒を佐賀美先生に押し付け、備え付けの水で錠剤を流し込んだ。気分的に行ける気がすると気合いを入れ直し私は保健室を後にする。
溜め息を吐く佐賀美先生にはいつも迷惑を掛けているが、今月はこれで許してほしい。

私の引きこもり場所。最上階の一番奥、誰も使用していない音楽室。
放課後は大体ここで好きに過ごしている。作曲をしたり、課題をしたり、昼寝をしたりと自由気儘だ。ここの手配をしてくれたのも実は佐賀美先生だったりする。
私は名前を伏せて作った音楽を学園の課題曲として提供したりしてなんとかやり過ごしていたが、そろそろ限界が近いことも身を持って知っている。
同じプロデュース科のあんずちゃんはドリフェスをいくつもこなしたり強豪ユニットと組んだりしてどんどん経験を己の実力にしていっているようだ。
先生たちではないけれどそれに比べて私は、と頭を抱える。プロデュースはおろか学園の生徒と打ち解けることも出来ない私はこの学園にいるべき存在ではない。自分の立場を分かってはいるけれど、どうしても出来ないのだ。
こうして一人でいる間にも彼女は一つ一つ着実にステップを踏んでいるというのに。

「あ、メール……うわ」

すべてを拒絶してしまいたくなる。誰も私に構わないで、必要ないから。
最大の汚点の一つである部活動、主からのメールを読んで、閉じる。今日は軽音部が活動しているらしいが、部長からの呼び出しに応じる気分ではなかった。と言ってもそんな日が表れる瞬間はもう来ないだろう。すでにユーレイ部員と化しているのだから。

「……やめた」

自分のギターを手にして、私はまた曲を作ろうと立ち上がる。
鍵を閉めた音楽室、誰も来ないでと祈りながら私は一人、踊るのだ。



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