不穏な雰囲気を感じ取ったのはKnightsが先だった。今し方パフォーマンスを終えてきたUNDEADが泣いている私を庇いながら凛月と、瀬名先輩を前に対峙している。理由はどうであれ弱い者いじめは良くないと言った風に。
ぎらついている魔物達を前にしても動じない凛月と瀬名先輩であったが、鳴上くんと朱桜くんは仲介役だった。

「もう、また泉ちゃんってば」
「騒ぎを起こさないでください、先輩方」

ぶつぶつ文句を言う瀬名先輩。彼は悪くない。言おうとして見上げた先、朔間先輩との距離にポッと赤が差した。
首を傾げる朔間先輩はステージ後だからかやけに妖艶で、私はそんな人の腕の中にいるという事実に気付き近いですと声を荒げた。

「いいから離れろって言ってんだよ」

怖い口調で凛月が足を出してくる。さっと避けた朔間先輩から解放された私は全体が見渡せる場所へ逃げた。
こんな一触即発な展開はまずい。けれど、一番平穏を求めそうな朔間先輩が話の主導権を握る。

「凛月や、次のステージはKnightsだったか」
「どうせ知ってたんでしょ。それより、」
「Knightsよ、一つ提案がある」

何を言い出すのだろうか。空気が悪いところにまたも足を踏み入れてしまったのはあんずちゃんで、彼女は両ユニットを眺めた後、私の元へ駆け寄ってきた。泣いている私に即座に気付き、手を握ってくれる。

「名前ちゃん、どうしたの?」

それには答えずにここにいる理由を問えば、Knightsのドリフェスを企画したのはあんずちゃんだと言うことだった。さすがは、強豪ユニットをいくつも手掛ける敏腕プロデューサーである。

「役者が揃ったところでちょうどいい。我等UNDEAD、プロデューサーは名前。対するはKnights、プロデューサーをあんずの嬢ちゃん。この構図でドリフェスをやろうではないか」

一瞬の沈黙の後、呆れた声。多分誰も知らなかった展開だ。

「勝負はそちらの得意分野で構わん。逃げも隠れもせんからの」
「何勝手に決めちゃってんの?チョ〜うざい」

私が慣れるためにドリフェスを企画してくれるのは嬉しい限りだが、こんな喧嘩腰な対決なんて何の意味があるのだ。相手はあのKnights。冷静でいられる自信もなく朔間先輩の腕を掴む。

「嫌です、私」
「悪いが名前の意見は通らんよ」

ほれ、とそちらを見るように小さな声で言われる。そこには怖い顔をした凛月がいた。
朔間先輩と私を睨むような視線に怯えながら朔間先輩の背中にそっと身を寄せた。
今までのことを含めて、身勝手ことばかりしているから怒っているのだ。

「いいよ」
「ちょっと凛月ちゃん!?」
「くまくんが決めないでよ!」

これは身内の揉め事だ。そう気付いたのはまっすぐに凛月の目が私と朔間先輩を見据えていたから。
読んでいたように満足気に笑う朔間先輩がそっと私を差し出す。急に凛月の前に出されてあたふたする私の後頭部に手が回る。そのままぐいっと引っ張られたとき、私は今度は凛月の腕の中にいた。

「その代わり、俺が勝ったら貰うから」

何を、と野暮なことを聞くことはない。兄弟喧嘩と色恋沙汰に巻き込むな。面白くなった。結局はこの対決を承諾してしまった両ユニット。
心臓がもたない私は凛月の胸を叩き自力で脱出する。
今はまだ、UNDEADに付いていく。先に行ってしまった彼らの背中と凛月を見比べていたら彼はひらひらと手を振った。
あの頃、まだ私が凛月の隣にいた頃の笑顔を向けられて心が揺らいだ。



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