すでに準備は出来ているようでその場から離れることはしなかった。私は視線を泳がせるばかりでその場に留まることを迷っていた。
逃げたくないのに足が竦む。瀬名先輩の衣装を見ていたらどうしても思い出してしまう。

「とっくの昔に退学したと思っていたのに、しぶといねぇ」
「ええ、それだけが取り柄なもので」
「どうでもいいけど。へえ、UNDEADとやってたんだ。確かにあんたの得意分野かもね」

はあ、と流すように聞いておく。その時が迫っていることを考えて、どうしようと悩む。合わせる顔がないといつまでもそんなことばかり言ってられないのに。

「……気になるの?」
「え?」

瀬名先輩の言葉は遅れて聞こえてきた。私が見つめていたのはこのステージ裏に繋がる入口の方で、あっと目が合ったときには瀬名先輩の顔をすぐ近くにあった。
苛立ちが露になって彼は私の肩を押した。簡単によろける私が背中を預けた壁に手をつく瀬名先輩から逃げ場がなくなる。

「そうだよね、Knightsのこと恨んでるもんねぇ、名前ちゃんは」
「……っ!」

否定してやりたいのに声が出ない。ぐっと押し黙らせる綺麗な目力にすっかり気圧されて、私は彼の言葉を黙って聞くしかなかった。

「甘い蜜だけじゃ生き残れないよ、この世界」

私は一人でここまで来たのではない。みんなが私の為に、不器用な私を見守ってくれたから出来たステージだ。優しい人達に負ぶさっている現状を瀬名先輩に言い当てられ、返す言葉もなかった。

「特にあんたは才能ないんだから早く辞めた方がいいんじゃない?」

それは前にも言われたことだ。頑張って作った案を彼は使い物にならないと一蹴した。Knightsのことを考えて作られていないと言われて落ち込んだ記憶は忘れていない。
基本的に私は特化した人間ではない。服飾とか出来ないしワンパターンなアイディアばかりだ。

「嫌です……!」

ようやく見つけた夢。投げやりになっていた関係を一から築きたいと思えたからもう背を向けない。

「私は、ここにいたいんです」
「じゃあ、Knightsのプロデュース出来るの?」

にやりと笑った瀬名先輩の美しい表情に目の前が真っ暗になった。私は自覚している。私はKnightsのプロデュースだけはきっと、不可能だと。
あれほど好きだったことを今でも覚えているからこそ、忘れもしない。

「名前?」

微かに寝惚けたような声。同じ教室にいるのに一言も会話を交わさないし目も合わさない。
だけど気になってしまう存在。朔間凛月が、私と瀬名先輩を見据えていた。

「ほら、来たよ。懐かしい面子でしょ?」
「あ……」

凛月を見るとあの頃の気持ちが蘇ってくる。情けなくて、相応しくないと申し訳なくなる。
だから私は凛月とも、Knightsとも関わることが出来ない。愛の曲だって書けない。
プロデューサー失格だと思わせたKnightsは私のトラウマだった。

「セッちゃん、何を言ったの?」
「別にぃ。やっぱりこれぐらいで泣くなんて弱いままじゃん」

瀬名先輩が離れていったせいでこぼれた光が私の顔を照らした。凛月に見られてしまう、と必死に流れてほしくない涙を拭うが、一度ストッパーが外れてしまっては止めることができない。
嗚咽を漏らしながら目元を押さえつける。瀬名先輩の言う通り、こんな情けない子なんて誰も必要としてくれない。
凛月が、私の名前を呼んだような気がした。まばたきを繰り返してゆっくりと開いていく。
求める顔付きにくらくらしてくる。水中に在る目元が最愛の人を映す途中、急に視界がシャットアウト。
抱き留めてくれる感覚と汗の匂いがした。

「あんまりうちのプロデューサーをいじめんでほしいのう」
「そっちのじゃないでしょ」

戻ってきたUNDEADと、用意を始めるために集まってきたKnightsの一同が、揃った。



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