準備期間なんてあっという間だった。当日、私は時間に追われながらも先に始まっていたあんずちゃんプロデュースの舞台の前にいた。
ステージの前にはたくさんのお客さんがいて活気にあふれていた。当然、その先で披露するアイドル達もキラキラしている。
あの人は誰だとか交流関係が狭い私には分からないけれど、コンセプトに合わせて二つのユニットが出演しているようだ。さすがは期待の星、あんずちゃん。
憧れている暇はない。私は荷物を荷物を抱え直して走り出した。負けたくないと、強く思うようになっていた。やることはやったつもりではあったが、実力不足からのスタートでは限界があった。
そもそもここはオマケ程度のステージであり、UNDEADの皆を巻き込んでしまったことを今更悔やむ。
私がいなければメインステージでパフォーマンスしているべき存在であるというのに。あんずちゃんの手に掛かれば、特別な演出、衣装、歌で輝けるのに。

「時間だぞ」

最前列にいた大神が言って、舞台袖で揃うメンバー。顔を見合わせて、その目が一斉に私へ向けられる。
今日の主役はお前だと言われているようで震えが止まらない。原因は私にあるのに彼らに責任を押し付けるなんて酷いことを、どうして私はやろうと思ってしまったのだろうか。

「不安そうな顔をするな」
「行ってくるね」

乙狩くんが私の肩を叩く。彼らは私よりもずっと強く、信じろと背中で語る。
投げキッスをする羽風先輩の笑顔に胸が軽くなったのも束の間、私へこのステージを任せてくれた朔間先輩が余裕の表情で見据えた。

「名前、ちゃんと見ておれよ」

ステージに上がれば途端に歓声に包まれる。UNDEADの知名度がここまで高いとは思っていなかった。お客さんのテンションは絶好調で、曲が始まる。何度も聞いた彼らの代表曲が響く。
凄いという感嘆から、やっぱり悔しかった。私が出来たのは精々一曲を提供することぐらいで装飾も凝れないし、衣装だっていつものユニット衣装で立たせてしまった。
私がもっとしっかりしていれば、段取りが分かれば、経験があれば。彼らをもっと輝かせることが出来たのかもしれない。
そう思うと途端に涙が溢れてきた。不甲斐ない私を助けてくれた彼らに何も返せないし役目を果たせない。なのに皆は私の為に歌ってくれているようなもの。
私がいなくても彼らは格好良い。こんなにもファンの声援を浴びられる。でも、もっと引き立てることが出来るとすれば、私はその手伝いがしたい。
変わらなくちゃ、と強く願う。
逃げてばかりだった自分を奮い立たせて、アイドル達の前に立とう。
そう決意して、残り少なくなったUNDEADのステージへ目を向ける。残念ながらオンステージではなくこの後も他のユニットが控えているドリフェスがあるので時間は短いものだった。
どうせならこの後も見ていきたい。研究は大事だと考えながら楽しんでいたら、ふと、首筋がひんやりとした空気を感じ取った。

「あれ、あんたまだこの学園にいたんだぁ」

びくっと震えた身体。ゆっくりと振り返った先には、眩しいほどの銀色に輝く髪。スポットライトを浴びていなくても綺麗なブルーの瞳が私を見遣った。
ずいぶん久しぶりな気がする。掠れた声で、目の前の人物の名前を呼んだ。

「瀬名先輩」

次に控えているのがKnightsだと、彼が着ているユニット衣装で悟った。
一番会いたくないグループとまさかこんなところで対峙してしまうとは。



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