あんスタ | ナノ


次の企画を纏めていたら急にずしんと背中に重いものが圧し掛かってきた。視界の端に見える黒髪が私の首筋を撫でる。向き合わずとも甘えてくる正体は私の恋人しかいないので姿勢を崩さずに凛月、と名前を呼んだ。
返ってきたのは彼の口から発せられる欠伸。呑気なアイドル様だとあやすように頭に触れたらがぶりと噛まれた。どうやらこんなことで誤魔化されないと見透かされていたらしい。

「凛月、私今忙しいから。ごめんね」
「別にいいよ。勝手に遊んでるから」

もちろん名前で。擦り寄ってきたと思ったら彼の頭がごろんと私の膝の上に乗る。ここは教室で私は放課後に提出する企画書に追われていて、邪魔をする猫を追い払うことも出来なくて。そんなに器用ではない私に積み上がっていく課題。私の眉間に皺が寄るのを凛月は楽しそうに眺めていた。

「俺が昼間に起きてるなんて貴重だよ?構った方がいいんじゃない?」
「はいはい。じゃあアイドルの凛月くん、困っているプロデューサーを助けてくれませんか」

ちょうどKnightsのプロデュース案だったから凛月の手を借りようとしたら、私の手元から紙を奪い、それからにんまりと笑った。あ、これは嫌な顔だ。

「俺の意見なんか聞いたらまたセッちゃん辺りに怒られるよ」
「……そうでした」
「代わりに癒してあげるからさぁ」

ぎゅう、と肩を抱き寄せて甘えてくる様子に頬が熱くなる。じゃれついてくるのはもう慣れたことだけど、クラス中から浴びる視線が恥ずかしい。嵐ちゃん辺りがまあまあ、と口元を抑えながら近付いてきた。

「相変わらず仲良しさんね。でも凛月ちゃん、名前ちゃんは私達のために考えてくれてるんだから邪魔しないの」

め!、そう言って凛月の額を小突く嵐ちゃんに、目に見えて凛月の機嫌が悪くなる。眠い子どものみたいにいやいや首を振る凛月はすごく可愛い。けれど、今は私も嵐ちゃんの味方だ。Knightsのプロデュースをやるためにも時間は限られている。

「今回の企画、まだどっちがやるか決まっていないんでしょう?」

ずきん。胸を抉られた感覚にも負けじと笑みを作る。頷いて肯定を示せば、嵐ちゃんは私の危機的現状にもエールを送るように微笑んだ。少し眉を下げた慰めの笑い方だった。

「転校生ちゃんも名前ちゃんにも頑張ってほしいわぁ。そのためにも凛月ちゃん」
「名前なら大丈夫だよ」
「……うん、ありがとう」

嵐ちゃんが私達の前に立っているのをいいことに、凛月が私の頬に口付けを落とした。猫が甘えてくる表現の一種にも歓声を上げる嵐ちゃんに耳を塞ぎたかった。






いつも凛月の方が寄ってくるから、私から彼の元へ行こうとするときは大体いつも半泣きだった。私は探すのが下手なのかもしれない。連絡もつかない、見つからない。私が動くといつもそうだ。
人前では返せない愛情。凛月が飽きたら捨てられてしまう恐怖に怯えていることを彼は知っているのだろうか。

「凛月、起きて」
「んん……?ふわあ、おはよう」

目を擦りながら起き上がる凛月の言葉を待たずに飛び込む。予期していたみたいに受け止めてくれる凛月が「珍しいねぇ」と可愛がるように私の頭を撫でた。嘘吐き、大体読んでいたくせに。そんなことを考えていたらやっぱり泣きたくなって。

「はあああ」
「話聞いてあげるよ」

下を向いて吐き出した重い溜め息。諭す彼が私の身体をそっと自分の膝の上に誘導した。
一定のペースで頭を叩き、鼻歌を刻み始める彼の細い腰にぎゅっとしがみつく。

「また駄目だったぁ」
「やっぱり」
「それ、ひどい」
「未完成の企画案じゃ転校生も椚先生も打ち破れないこと、いつになったら自覚するの」

言葉に詰まる。戦う前から負けていることが多々あるのだから凛月の指摘は最もだ。だって、と言い訳を仕舞い込む。何にも上手くいかない現実を投げ捨てたくなる。
こうして凛月が傍に居るからいい、だなんて言ったら君は笑うのかな。

「俺がいるからいいじゃん」
「そうしたら運悪く零先輩に会ってUNDEADのライブ手伝うことになった」
「ちょっと兄者の棺桶行ってくる」

黙っていては後が怖いと思っていたけど、直後に立ち上がるなんて反則だ。すばやい動きで私を落としてさっさと行ってしまう凛月の背中に投げ掛ける。

「ねえ、傷心中の私を置いて行くの?」

精一杯の甘えたポーズは十分効果があったらしい。あなたにしか見せない私の素顔、諦めた凛月が脱力した様子で帰って来て、私のことを抱きしめた。
それでいい、今はこの温もりに離したくはない。
次は大丈夫だよ、といつも慰めてくれる凛月。決して手助けはしない、私一人で出来るようになるまで見守ってくれる彼の優しさに私はいつも甘えている。

「どうやら名前先輩はimageを膨らませることが苦手なようですね」
「どっちにしてもくまくんは優しすぎ!あれじゃいつまで経っても改善されないと思うんだけどぉ」
「俺のインスピレーションを名前に分けてやりたいぐらいだな!」
「嬢ちゃんはスパルタ派か?それとも褒めて伸ばすタイプかの?」
「まあ、名前ちゃんが他の人といたら凛月ちゃんが妬いちゃうんだけどねぇ」

外部が手を差し伸べようとしても離さないようにしていることを、彼女はまだ知らない。


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