あんスタ | ナノ


舞い散る光の粒とひらひらと落ちてくる紙吹雪。真ん中で堂々と挨拶をするあなたはいつも私と目を合わせ確認するように微笑むのだ。返すのは拍手、今日もマジックの種は分からず芸達者な彼に送るのは称賛であるのに、私は彼が求める簡単なことに気付けず、ここまで来てしまった。

「渉、お疲れ様」
「おやおや、名前じゃありませんか。今日も来てくれたのですね!」
「いつも思うけど、私以外に呼びたい人とかいないの?」

一般客も訪れることが出来る日。渉が出る演目のチケットが私の家のポストに入っていることに驚きを感じたのはもうずいぶん前のことだ。しかも最前列の真ん中、彼が属するfineのライブでも、演劇部の公演でも、彼のオンステージでも、用意されたのは一番彼のことが近くで見える場所。
せっかくもらったチケットを無駄にするのももったいないし、何より私はステージに立つ渉を尊敬していた。幼馴染みとも呼べる旧知の仲。先読みしたように渉が大袈裟な動きを付けて言った。

「古くからの友人に見てほしいのですよ」
「嬉しいからいいけど」

コンサートでの振る舞い、演技している姿。昔から渉は目立っていたから、その独特な感性は人の目を引いた。くるくる変わる表情も
饒舌なそれも私には持っていない才能だ。だからなのかもしれない、渉はいつも自分のステージに私を呼んで感想を求めてくる。ずいっと差し出された顔、動じていない私にもおそらく不満げなのだろう。

「それで、どうでしたか。今日の私のマジックショーは!」
「下からなら見えるかなと思ってガン見していたけど全然分からなかった」
「……もっと楽しんでほしいんですがねぇ」

はあ、と彼には珍しい溜め息。私は普通に楽しんでいるというのに、渉は何故かそれが面白くないらしい。意味が分からないが、次も期待していると伝えれば今日以上に燃えてくれるのでそれはそれでいいとは思う。

「私はもうずいぶんと、名前の笑った顔を見ていない」
「そう?」
「いけませんねぇ。まだまだ叶いそうにありません!」

その言い方だともう何年も願っているようで、はてと首を捻ってしまう。

「ねえ、もしかして私を……」
「あなたの笑顔を一番近くで見ることが出来る特権、誰にも渡すつもりはありません」
「呆れた」

胸を張る彼。エンターテイナーの名が泣くぞと言いたげに睨みつけても渉は動じない。何百人を楽しませる彼の技術を最前列の目の前で見せる意味がようやく分かるも、そんな必要性がないことを突きつける。

「渉らしくないよ」

懐かしい眼差しが降ってくる。私に出来ないことを昔から容易く、最先端な技で披露してくれるのに。私はそれをもうずっと前から知っているのに。
どうして満足出来ないの、と少しきつめに彼に問い掛ける。

「これでも毎回感動しているの、分かってるんでしょ?」
「ええ、目をキラキラさせて拍手している顔、昔から変わりませんしね」

驚き。一番初めに出てくる感情は目を見開いて感動する動作なのだ。楽しいとか嬉しいという表現は出来ていないのかもしれない。渉の言う満面の笑みとか涙が枯れるぐらいの大声とか。
こんな時でも無表情でいる私の頬を渉が持ち上げる。手袋越しに触れる手のひらの大きさは変わってしまったけれど、私に対する姿勢は昔のままだ。

「それでもいつか、どうか見せてください。あなただけなんです。私の芸をずっと見守ってくれたのは」

そして彼もまた、私のことを無二の存在であると言う。当たり前だ。
彼が用意する舞台に足しげく通っているのは見守りたいから。必要としているのは私も同じ。

「一生分のチケット、予約できる?」
「ええ!」

それはそれは幸せそうに笑う渉を見て、少しだけ頬が緩んでしまったらしい。ぐぐぐっと顔を近付けてくる渉の必死さが見てて鬱陶しい。

「うわっ」
「あ、ちょっと部長!」

指差す二人の男子学生が歩み寄ってくる。
渉の奇行を注意してくれているところを見ると渉の後輩らしい。

「一般のお客さんに迷惑掛けないでください」
「友也くんに北斗くん!紹介します、こちらは」
「初めまして、この人のパートナーです」

ぱちくりする後輩を前に、しっかりとした表情でご挨拶を。
良いリアクションをする二人を前に私はゆるめた顔を渉に見せることは出来なかった。
あなたの生きがいを奪ってしまうことになるから許してね。

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