あんスタ | ナノ


浮かぶフレーズを書き留めている間にはもう先に進んで行ってしまうから、この指を止めることは出来ない。一音もずらさないように手書きの五線譜を睨み付けるため目を離すこともせず、時々頭を捻らせることはあっても、寒さにくしゃみをしたとしても、月永レオはKnightsが最近よく使用するスタジオに
籠っていた。
今は放課後だがメンバーが来る様子はない。その理由としては、今日はKnightsの活動日ではないからである。レオが自らスタジオにいるなんて、とリーダー探しに日々疲労する1年の朱桜司が見たら卒倒するだろう。もっとも、レオが今この場所にいるのだって本当に気まぐれで、お得意のスキル、どこでも所構わず作曲するを発揮したのも偶然である。溢れ出てくる音楽を作るのに場所を選ぶ必要はない。

「んんー、この曲はKnightsっぽくないか?……お、雪か!」

むしろ最愛の妹に相応しい甘い曲が形になったところで顔をあげれば、外では白い世界が広がっているであろう、しとしとと降ってくるそれ。
どうりで寒いと思ったと、レオは冷え切ったスタジオに身を縮める。そこでまたインスピレーション。Knightsに似合うスノーソングでも、と次のページにまた書き殴って数分後であろうか、不意に窓からトントン、と音を鳴らすのが聞こえた。

「おーい」
「……ん?なんだ、俺は今……名前?」

ひたすら没頭していたので、レオは外の様子にまったく興味がなかった。何度も叩く音でようやく顔を上げれば、そこには名前という女の子が立っていた。
ようやくこっち見たと笑う彼女はマフラーと手袋を付けているが紅潮した頬は隠し切れていなかった。雪の降る中、何をしているのだろうとレオは窓を開けてやる。

「これ、お裾分け」

そう言って名前が差し出したのは雪ウサギであった。よく出来ているなと笑うレオに名前は満足気に微笑み、窓枠にそっと下ろしてやる。
釣られるようにして奥を見ればそこにはレオを除くKnightsのメンバーが勢ぞろいしていた。小学生のようにはしゃぐ朱桜司、鳴上嵐が器用に避けながら走っていれば、雪をぶつけられてキーキー騒ぐ瀬名泉、計算高く笑う朔間凛月の姿もあった。

「なんだなんだ、皆仲良しだな!」
「私が誘ったの。スタジオの電気が点いてたから、もしかして月永くんがいるのかなって」

あの曲者揃いのメンバーを集めるとは、とレオは改めて名前のことを大した奴だと思う。騎士だってたまには羽目を外したいかとはしゃぐ様子を見ていればまた新しい旋律が彼の頭の中で踊る。
作曲に戻ろうと「怪我はするなよ」と背を見せれば、逃がすまいとレオの服を掴むのは彼女しかいない。どうした、と少し不機嫌さを見せるも彼女はひるまず会話を続けた。

「今は誰の曲を作ってるの?」
「あいつらのだよ。雪をテーマにした曲だ」
「へえー、ふーん」

予想的中。嬉しそうにする名前を見てもレオは首を傾げるしかなかった。彼女がそこまで喜ぶ理由は理解不能。だってレオの行動、現状から見てその結論を導き出すのは極めて容易いことだからだ。

「百聞は一見にしかず!」
「いや、雪なんて何回も見てるし」

つまり自分のことも呼びに来たのだろう。そこまで考えて、すんなりと頷くことは出来なかった。書きかけの曲を作った方がよっぽどあいつらのためになるとレオは判断するが、目の前で誘ってくる彼女にはやはり、目を引かれる。

「でも今こうして降り続いている冬を体験しなくてどうするの?仲間達と走り回って、寒さを肌で感じて、白い息を吐き出してこそ美しい曲が出来ると思うんだけど」

確かに絵になる。寒いであろうにスカートから伸びる白い足を惜し気もなく披露するのは
彼女なりのプライドであろう。赤くなった膝を眺めてむしろこちら側に引き込もうと顔を見上げて、目を奪われた。

「一緒に遊ばない?月永くん」

彼女の目がキラキラ輝いているように見えた。上を向く睫毛に乗った雪の結晶が白く縁取る。瞬きをすれば動きに合わせて落下する氷の涙。頬に溶けた水分を拭う彼女の一連の動きはレオに新たな感情を芽生えさせた。
触れたいと、恐る恐る手を伸ばす。
名前の目元辺りに人差し指を当て、彼女の一部になる前に奪ってしまう。
そうか、と頷いてレオは窓際から離れていく。残された名前が今度は首を傾げる。

「よし、俺も行く!準備するからそこで待っててくれ、名前!」
「やった!」

そう言えば名前と過ごす冬はこれが初めてだったと気付かされる。
まだ見たことのない景色、名前がくれる新しい世界。
やっぱり好きだな、とレオは外で待つ名前のために窓から飛び出した。



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