Free | ナノ


長い前髪に隠れたその先に溺れて見たくて、明らかに腰が引けている彼の眼前にまで迫った。ちょっと、とようやく非難の声を出す郁弥くんは女子高生顔負けのドン引き具合だ。
大人しく私は一定の距離を保つべく自分の席に腰を下ろす。それでもまだ眺め続ける私に
付き合ってくれる優しい彼は、「何?」と不機嫌オーラを放ちながら問う。

「郁弥くんの赤い目、きれい」
「はあ?」

真正面から褒められることに慣れていないらしい郁弥くんの頬が真っ赤に染まる。こんなところにも、というのはたぶん怒られるから口を閉ざしておく。ぱくぱくと文句を言いたくても言えない彼が本当にいじらしい。これも顔には出さない。悟られたら拗ねてこっちを向いてくれなくなりそうだから。

「兄貴だってそうだし、」
「夏也先輩?だっけ?でも私は郁弥くんのしか見てないよ」
「……ハルの色だって、」
「七瀬くん?私は今郁弥くんの話をしてるの」

自分で言っていてちょっとうるさいな、と自覚できるので話を逸らすことにした。彼らのような素敵な色を持っていない私は一人観察をする。真っ黒な髪と目は怒られるかもしれないけどコンプレックスだ。私も鴫野くんみたいに色素の薄い色が良かった。

「名字だって」
「うん?」
「きれいだと、思うよ」

ああもうこの子は一体、どういうことなんだ。
あれだけ照れて言葉を失っていたにも関わらずこの切り返し。やっぱり兄の影響だろうか。夏也先輩も相当モテそうだし。それより何より、私のことを郁弥くんが褒めてくれた。この事実が堪らなく嬉しい。

「え、え、どこが?たとえば?」
「ちょ、うるさい!立ち上がらないでよ!」
「あ、ごめん」

興奮を静めストンと落ち着く。もう、と溜め息を吐く彼は呆れ返っていて、私は誤魔化すように笑い声を上げた。

「だって、ちゃんと褒めてくれる人なんて郁弥くんが初めてだったから」

騒がしい点はマイナスポイント。郁弥くんはきっと大人しくて控えめで、苛めがいがありそうなか弱い女の子が好きなんだろうな。だって彼自身も華奢だし。私とは大違い、正反対すぎて嫌になっちゃう。
どれだけ頑張ったところで彼に釣り合う子になれないことを思い知る。だからそれを忘れ去るために、わざと彼が嫌そうな性格で接する。
友達としてで十分だから、私の本音を悟らないで。

「きょろきょろしてる時に揺れる髪」
「え……」
「不意を突かれたときの顔とか」

一瞬だけ、気心知れた仲に見せる微笑み方。優しくて気高い彼が私のことを見てくれていた事実に涙腺が緩くなる。

「名字のこと、可愛いと思ってるし……」

そうやってまた赤を潜らせてしまうからずるい。私の染まった頬の色も見せられないじゃない。
二人して赤面して笑い合う日は来るのだろうか。そのうちね、なんて孤独の王子様にキスを送りたい衝動を堪えた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -