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二人の世界を共有していると言うのは、お互いに枠を越えた存在だからではないだろうか。真面目な問い掛けにもからかいの声音にも返ってくる言葉は同じもので、同じ質問をするのはもう止めた。彼らは真顔で照れ一つ感じていない様だし、仲睦まじいならそれでいい。

「ねえ、今日はメインを二つ用意したい」
「勝手にすればいい。そのうちの一つは、」
「鯖以外認めてくれないのなら知っている」

似た者同士の二人は双子のようだ。お互いに自分のペースを貫いたマイペースぶりを発揮し、加わった渚がさらに掻き回し、世話焼きの真琴はよく頭を悩ませていた。
それでも元凶が「大丈夫?」と揃って心配の色を浮かべるものだから、真琴は適わないなぁと小学校からの付き合いである彼らとの距離は変わらない。
それに比べて、彼らは密度が増していると思う。学校でもよく一緒に居るし、家に帰れば普通に夕飯を食べて帰るようだ。今だってそう、昼休みの時間。名前は決まりごとのように遙の隣にいるし、遙もそれを当たり前のように受け入れている。

「この曲いいでしょ」
「この水着もいい」

お互いの話を聞いていないくせに、お互いの好みを教え合っている二人。ちぐはぐな幼馴染、だけど昔とは違った雰囲気。名前が遙にイヤフォンを押し付け、曲の感想を強請る。対して遙が手元にある水泳雑誌を見せ付け、水着の良さを語る。少しだけムキになるように表情が乗る。
少しの変化に変わらない距離感。並ぶ二人は不服そうな顔をしていてもまるで磁石のように離れない。真琴だって昔から何度か口にしたことがある。どうして自分には何も言ってくれないのだろうと悲しく思った日もあった。だが、両者に聞いたところで返ってくる反応は同じなのだ。いつものように無表情で、さらりと流すような口調で。

「あのさ、本当にハルちゃんと名前ちゃんって付き合ってないの?」

頭の中の言葉が勝手に口を出たかと思えば、どうやら考えていることは渚も一緒だと真琴は思う。何度も念を押すように交わされる会話。返ってくるのはやっぱり無感情。
隣にいることが当たり前だという事実、それに対する理由を彼らは騙る。

「だから付き合っていないって言っているだろう」
「もう聞き飽きたよ、その質問」

似たような表情で、声音で。おまけと言いたげに名前が渚の額にデコピンを送り、静かにその腕を戻した。後ろで震える手を守る存在なんて知らずに、渚は最初こそ唇を尖らせ、どうでもいいと言う態度でそのままダイブ。

「だってさぁ……まあ、いいけど。昔から仲良かったもんね、二人とも」
「……」
「……」
「僕も仲良くする〜!」
「こら、渚」

抵抗しない遙に黙り込む名前。抱き着いてはしゃぐ渚を引き剥がした真琴は、久しぶりのやり取りでようやく沈黙の理由に勘付いた。
目を合わせない二人はタイミングを伺っていて、でもやっぱり駄目だと言う顔。並んだ腕の先はその背中に隠されていて見えやしないが、詮索されるのも祝福されるのも苦手そうだから。

「俺は二人の空気が好きだよ。なんか、一緒にいると柔らかい気分になる」

ちゃんと言ってくれるまで待っていようじゃないか。ね、と言い聞かせるように言えば渚が明るく笑って教室を出て行った。
ぶんぶんと大きく振った手が見えなくなる頃、二人の距離はいつもと同じに戻っていた。

「名前、そろそろ水泳部に入ったらどうだ」
「私マネージャーとか向いていないから」

普段は何を考えているか分からない二人。もし報告をしてくれる日が来るのなら、その時はどんな顔で自分の前にいるのだろう。想像して、笑い転げる真琴を怪訝そうに見つめる瞳。

「真琴が壊れた」
「どうしたんだ、真琴」
「いや、何でもない」

心配してくれるタイミングは一緒で、いつだって当の本人は元凶だってことに気付いていない。

「二人とも、仲良いね」

瞬きをしてからゆっくりと。名前が遙を眺めだからしょがないという声で、遙がそれに訂正を加える。

「腐れ縁だからね」
「そこは幼馴染でいいだろう」
「はいはい」

そうやって隣にいる理由に使ってきた関係をいつ直すのだろう。多分二人とも恥ずかしがり屋だから、と真琴は並ぶ二人の背中に隠された繋がれた手を無理に明かすこともしない。
いつかきっと、打ち明けてくれる日が来たら。本当はね、と隠された内緒の話はバレバレだったと伝えてあげよう。



「水葵」様へ提出
2013.10.12




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