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現状把握。それが私に課せられた任務だった。とある方からの依頼で、現在の御柱タワー内部を探ってくること、私はまさに今その真っ只中である。まあ楽な仕事ではないと思っていたが、派閥をよく理解しないまま突入してしまったのは誤算だった。
ウサギの仮面を被った奴らが忙しなく動いていると思ったら、どうやら侵入者がいるようだった。すでに何人か倒れている方からついでにとウサギの面を拝借して自身の顔を隠す。
うん、これならウサギ側には味方と取ってもらえるでしょう、多分。いざとなれば逃げればいいというスタンスで戦闘に身を投じたのがいけなかったのかもしれない。
侵入者である人はすらりとした優男で、彼の一振りは想像以上のものだった。身体を引いていなかったら全部持って行かれたかもしれない、とこっそり安堵。そんなことをしていたら、一列に並んでいた私以外のウサギさん達がばったばったと倒れていった。当然ながら、残った私に彼の視線が注ぐ。
うわぁ、勘弁して欲しい。逆に目立ってしまったじゃないか。

「あら、少しは骨のあるウサギさんもいるみたいね」

鼻唄しか聞いていなかったから少し意外だった。この人オネエか、と冷静に分析するも自分の声は出さなかった。服装から女だとはバレているだろうが、わざと特定される部分を晒す必要はない。

「でも弱い者いじめは趣味じゃないのよねぇ。今ならまだ見逃してあげるわよ、か弱いウサギさん」

ハートマークが付きそうな優しさは蹴り飛ばしてやりたい。私がウサギなら彼はさしづめオオカミと言ったところか。
肉食系という言葉がぴったりだと嘲笑ってやりたい衝動を抑え込んだ代わり、私は彼の懐へ飛び込んでいた。
あらあら、と提案を呑まなかった私への評価。ひらりひらり躱されるが更にスピードを上げる。カキィン、と刀が響き合う高い音がした。へえ、と独り言の多い彼は、近くで見たら息を飲むほど美しかった。

「じゃあ、楽しませてもらおうじゃない」

獲物を狩る目にギランと豹変する瞬間は背筋が震えた。美人は迫力があると言うが、ここで引いたら女が廃る。
再び刀を構え直した私へ掛かる言葉は「お嬢さん」だった。

「そろそろ素顔を見せたらどう?どうせそいつらの仲間じゃないんでしょう?」
「……」
「まあいいわ。私が上手く割ってあげる」

瞬間、空気がさらに冷えたような気がした。明らかに狙われている目付きに腰が引けている場合じゃなかった。
今度は容赦なく向かってくる切っ先、私の顔面に届く前に凌ぐが、実力は彼の方が上だった。

「貴女のその仮面を、ね」

弾き飛ばしてそのまま距離を取る。あんなに軽やかに踏み込んでいるのに、見た目以上に私の体力を奪っていく。もう肩で息をする私を捕らえるのは容易いと思ったのだろう。そのまま仕上げに掛かるつもりで、隙間を埋めるかの如く攻め込まれる。

「ほら、さっきの勢いはどうしたの?」

涼しい顔をしているのがむかつく。ステップを刻む淡々としたリズムに比べて私の呼吸は乱れすぎている。
彼の長い手足が自由自在に動く様は優雅であり、妖艶。戦いの最中、そんなところまで気を配れるのは敵ながらあっぱれだ。
じゃあ私もそろそろ、本気を出させてもらおうかしら。この視界の狭い仮面を剥ぎ取ったら、光と共に映るあなたは、やっぱり輝いていた。

「あら、なかなかじゃない」
「改めて初めまして。そして、さようなら」

私の口上に彼は微笑みで返す。それは肯定の合図であり、今後の展開はお互いに分かっていた。
戦いが終わったらおそらく名前を聞いて去るのだろう。覚えておく、とでも良くある台詞を残して。それも全部生きていたら、の話だけど。



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