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あの人が隣にいる未来を描く、想像する、シミュレーション。
それって結局は妄想なわけで、どんな顔をしていたって微笑ましいものではないと思う。手を繋いで、一緒に街を歩く。その時あの人はこう言って、私はこう返して。
目の前の相手を真顔で凝視していたら、若干引き気味に捉えられてしまった。

「お前、目がイッてる」
「失礼な。八田くんのこと考えてたのに」

とてもじゃないけど恋多き人には見えない八田くんがゲッ、という顔になる。女の子に見つめられて、君のことを考えてるって言っても彼は「また悪戯でも考えてたのか」と嫌そうに。だからモテないんだよ。伏見くんだったら私の思惑に気付いて苛立ちの舌打ちをしそう。それはそれは願い下げだけど。

「ねえ八田くん、好きな子とかいる?」
「バッ……!いいいいねーよ!何だよ急に!」
「そっか」

予想通りの反応だから私の取る態度も決められたもの。顔を真っ赤にして、否定して、行き場のなさそうに髪を掻く。居心地の悪さ、恋愛下手。でもそんなところも可愛いね。

「八田くん」

場所はソファーの上。怖がらせるつもりなどないのに、後ずさる八田くんを追い掛けていたら。う、だとかあ、だとか。小さく零れる声に重ねるように。

「と、手を繋いだらどうな気分になるのかな、とか」

ぐっと身体を、顔を。息が掛かるほどの範囲内で、八田くんは一点だけを見つめ返してくれる。
逸らして、逃げて、怒鳴られるかと思っていたのに。やはり妄想と現実はちがうらしい。

「ころころ変わる表情にキスをしたい、とか」

赤で染まる頬に指先を添える。この綺麗な肌に口付けたときの感触ってどんなのだろう。好きな人だったらなおさら気になる。
「そんなことを妄想してたんだけど、八田くんはどう?」
「ど、どうって……!?」
「八田くんはしないの?私だけかな」

慌てふためくのは想定内。振り払うこともなく、されるがままなのは予想外。
覆い被さるぐらいの体勢で、私は息を吐き出す。そろそろ正念場で、ステップアップはここしかない。

「こんなに近くに寄ったらドキドキするかなって。……熱いね、何だか」

告白するのって緊張するわけで。冗談なんかじゃないのは、私のこの真っ赤な顔を見て分かるでしょう。後は君がどう思っているかだ。色んなパターンを生み出した妄想。
最後の行方は、好きの答え。

「俺だって、してるに決まってんだろ!お前に笑い掛けられると俺に気があるのかなとか、守ってやりたいとか、抱きしめてみたいとか」

私も、そうだ。
攻めるだけ攻めて、いざとなった引く。それを許すまいとするのは君で。
上体を起こした私の手首を掴み、浸み込ませるように囁くから。

「……触れたい、って思ってるよ」

これはもう、恥ずかしさとかで逃げるわけにはいかないなと。
うん、と頷いたが最後、八田くんもそうらしくて俯いてしまう。

「私も同じ気持ち」

微妙なラインは私の自己満足。照れるか怒られるかは分からないけど、二回目はちゃんと君にするからね。
八田くんの帽子にそっと寄せて、顔を上げたら不意打ちを。なんて、いつまでも変わらないね。




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