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くっついて歩くのは好きじゃないなのかもしれない。嫌がる素振りはなかったが、私の緩んだ言動に対して返ってくるものもなかった。絡みついた腕は見た目以上に細く感じたが、そのしなやかさも魅力の一つ。恋は盲目ってこういうことなのかなって綺麗な横顔を眺めながら実感する。長い髪も、細い手足も、理想とは正反対だった。口を開けばオネエ口調だし、それなのに行動は男前なものだから忘れられないギャップの虜。

「ねえ、見て見て」

腕を組んで歩く私達を指差して話題に上げるカップルが一組。ついそちらへ意識されて声を拾ってしまうのだが、浮き足立つ彼らが告げるのは私にとって禁句だった。やっぱり、年の差って埋められないのかな。

「もういいの?」
「……だって」

幼い恋心を満たしてくれる紫さんの声だってすべて私の我儘を聞いてくれるだけに過ぎないのだ。拗ねる仕種も後悔にしかならないのに、解決法が分からない。
兄と妹。歳の差のせいで、どうしても恋人同士には客観的ですら見てもらえない。

「早く大人になりたい」
「そんないいものじゃないわよ」

喧騒の中、呟いたひとりごとは届いていたみたいだった。一歩分離れて斜め横を歩く私を振り返り、色々と経験してきた顔でそう零す。俯きがちの私が他の人とぶつかりそうになって、伸びてきた腕に手を取られそうだった。それが嬉しいのと同時に、ひどく切なかった。危なっかしい子の面倒を見ている心境ならば少しでも払拭させてほしい。
彼のコート、袖をぎゅっと握りしめる。

「と言うより、紫さんに似合う人になりたい」
「……まずは、その顔に出やすい癖を直すことね」

むう、と言われてもなお私の唇が尖ってしまった。可愛らしい行動に見えていると思ったのに彼には効果がないようだ。こんなことなら大人しく手を繋いでいれば良かった。
乙女心は複雑。頭をぽんぽんとあやされたことだって、そういうことだけど、ちょっと違うんですと抗議。

「子ども扱いしないでください」

また始まった、と息を吐き出す紫さん。
立っているだけで絵になるこの人を夢中にさせるにはどうしたらいいのだろう。

「私だって紫さんと同い年ぐらいだったらそりゃあもう振り回してたはずなんですからね!きっと!」
「……あなた、私と何歳差か分かっているの?」

粋がるなと言いたかったのかもしれない。大人、子どもって曖昧な線引きで語る私。彼が何歳で、私のいくつ上。紫さんには何度聞いても教えてもらえなかった。
残念ながら、もういつもの「秘密」は通らないのだ。

「知ってます。この前流さんがやっと教えてくれました」
「……」

表情が崩れたのは、正直嬉しい誤算だった。彼の前で忙しなく色を変えるのはいつも私の役目だったから。

「30歳」

小さな攻撃を仕掛けて、目付きが鋭くなる紫さんに見られてぞくぞくしてしまう。
紳士的な彼は怒鳴ることなどしないからこそのやり取り。それでも機嫌を損ねて置いていかれるのも嫌だからしつこくするのは止めておこう。でもいつかこのネタ、振ってみたかった。

「当たってますか?」
「……ええ。なんでバラすのかしら、流ちゃん」

嫌そうな顔の紫さんはレアだ。情報源を狩ってしまうぐらいの凄味があるけれど、なんせ発端が我らがキングなのだからしょうがない。若干諦めているのだろう。
あとバラされるのはこれが初めてではないらしい。

「いいじゃないですか。紫さん若作りしてるから大丈夫、いた!痛いです紫さん!」
「そんなこと誰が言ってたのかしらねぇ。もう、まだ若いあなたには分からないかもしれないけど」

地雷を踏むことになってしまった。自分から流さんが言っていたんですと口には出せず、
紫さんもそれすら二回目だと肩を落としていた。話題を切りたいがために早足になる彼の
腕はもう取らない。

「私、紫さんがいくつでも好きになりますよ。絶対」

先回りした私には彼の立ち姿がよく見えた。上から下まで焼き付けるかのように映して、
最後に照れ臭くて笑ってしまう。押し付けているだけかもしれないが、私自身幸せを感じているのだ。
こんなにも好きな人に正面から想いをぶつけられる。

「眩しいぐらいまっすぐで、壊したくなるわね」

そしてその相手が、私と同じ気持ちを返してくれればさらに嬉しい。
そこまで望めやしないと思っているのだが、耳元で私だけに囁く声音は誘うときの男の人のものだった。

「まだ見せていない私のことも知りたいかしら?」

目の前で私を見下ろす彼も発せられた声も幻覚じゃない。
夢にまで見たことなのに、二つ返事でOKと即答したいのに。

「はっ、ハイ!」

緊張のあまり裏返った声で快諾。締まらない空気に吹き出した紫さん。
弁解で忙しい私を放って笑い転げるものだから、これは撤回されると己のムードの無さを恨んだ。

「ふっ、ふふ!」
「ゆ、紫さん!私は本気で!」
「はいはい、ゆっくりね」

大人の余裕、自信。もったいないことをしたと何度こちらから誘っても彼には交わされるばかり。
今はまだ、なんて悠長なことは言ってられない。夜這い作戦でも決行しようかと企んでいたら先手を打たれ、ハードルを上げられるけれど。

「来るなら先に言ってちょうだいね」

勝負はおあずけだが、難易度は十分に優しいもの。
次こそはロマンティックな夜で攻略して見せましょう。

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