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カーテンを閉め切った部屋の中で何をすることもなく、時折彼の口から零れた溜め息にも似た文句と、やけに明るさを保とうとした私の鼻唄が交差する。冗談すら許されない冷たい空気を感じるのにはもう慣れてしまった。話し掛けることも出来ず、一人っきりが二つ分。
それでも一緒にいるのは意地でも強制でもなくて、私がただそうしたいから、それだけだ。
ベッドに横になる凛は相変わらず天井を睨み付けるだけで、私は空いたスペースに腰掛けていた。じっと眺める様子を気にしなくなったのはいつからだろうか。最初こそ怒声を浴びせられたりしたが、今じゃ彼はもう私のことなんて放置だ。話し掛けようが傍に居ようが――触れようが。
気温の上昇には新しい季節の到来を感じさせる。誰の許可もなく靴下を脱ぎ、凛のベッドに足を投げる。
するり、するり。何とも言えない音を立てながら指先で波を感じる。彼の身体がない窮屈なスペースで一人遊び。気儘でくだらない瞬間的な一幕。溺れないように抗うたびに、私のスカートが揺れた。


「……お前さ」


シーツの海に抑えつけられる。堅いベッドは音を立て、私と凛の身体を飲み込んだ。凛の足元で流れていた私を引き上げてくれたみたいだ。思ったよりも顔が近く、体勢をずらせば額が触れてしまいそうな距離だった。仏頂面で呆れ顔。凛の匂いがする、と今更ながら目を細める私に彼は溜め息を届ける。


「何してんの」

「凛が黄昏てるから、大人しくしてる」


あの頃の私は、こうして凛が話し掛けてくれるだけで嬉しかった。放っておかれたことなんて簡単に許してしまうし、尻尾を振って彼の次の言葉を待つ。でも、そんな従順さが懐かしくなるぐらい私達は変わってしまう。凛があの頃みたいに無邪気に笑わなくなったみたいに、私もただ彼の反応を待つだけの彼女じゃなくなってしまったみたいに。


「部屋にいるだけなら、外でデートがしたい」

「出掛けたいなら勝手にしろよ」

「ばーか。凛とがいいの」

「楽しいことなら、ここのが好都合だろ」


そうやって誤魔化すみたいなみたいなやり取りは嫌い。いつまでも自分が優位だなんて思っているなよ。
ニヤリといつも噛み付かれている歯を見せた後、引き寄せられた後頭部。唇が触れるタイミングなんて熟知していた私は両手で彼を拒んだ。ぐぐぐ、と全力拒否に彼は舌打ちで離れていった。
好きだからこそ、こんな気持ちの薄れた行為には及んで欲しくなかった。


「私は凛が好きだよ」

「そうかよ」


いつからだろう、凛が私の感情に応えてくれなくなったのは。わざとらしい愛の証明。
前みたいに、なんて、縋っているのは私も同じだ。そして凛が一番嫌がること。


「凛」


泣きたくなる。呼んでも振り向いてくれなくて、きっと私が涙声なのにも気付いてくれなくなって。最後には、遠い遠い場所に行ってしまうのかもしれない。


「……名前」


水滴が落ちる前、私を掴んでくれたのは凛だった。大好きで、暑いぐらい熱のこもった体温。
いつだって矛盾ばかりで、素直じゃない。


「お前は好きなところに行けよ」


きつく抱き締めたまま私が拒まないと知りながらそんなことを言う。涙味を刻み込んだ後、息が出来なくなる体温の共有。
離してなんかやらない。そんなこと許さないと震えるのはどちらの弱さだろうか。



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