部室に入った俺を出迎えたのは、元ヤンの名は伊達ではない怒号を放った荒北とその隣で苦笑いをしていた後輩だった。思わず耳を塞ぐ俺の首根っこを掴み中に引き入れる。その間に、すみませんと言いながら後輩は入れ違いで出て行った。
彼が昨日、俺のことを呼びにきてくれたことに気付き、同時に荒北が俺を正座させるのにも合致がいく。仁王立ちして腕を組む荒北が、俺のことをじりじりと睨みつける。


「テメェ……部室を何だと思ってンだ?アァ?」

「何もしていないぞ」

「しらばっくれてんじゃねぇ!そもそも部外者の名字と2人っつーのも気に食わねぇ!」


昨日見られた一部始終を報告されていたらしい。後輩の反応からして、よりにもよって一番言い訳のしにくいシーンを。


「あいつの性格は知っているだろう。止めても聞く奴ではないのだ」

「部活にまでテメェの事情を持ち込むな!」

「俺の事情とは?」


ただ、俺と名前はどちらかと言えば派手な部類に入る。それはもちろん交遊関係においてだ。遊び慣れていそうだとレッテルが貼られるようなタイプなので、通そうと思えばいくらでも理由は作れる。
荒北は、そんな俺達のことをそういう関係だと勘違いしたのだろうか。聞き返したことで口籠る荒北が無理矢理話を終わらせようと結論に持って行く。


「……とにかく、今後二度とあいつを部室に入れんじゃねぇぞ!」

「ただ話していただけなんだがな」

「色恋沙汰ならよそでやれヨ」



俺の話など聞かず、部内の規律を正すやり方にはむしろ賛成だ。キスをする直前の距離感がただの友達だと説明することも出来たが、俺はそうしなかった。荒北の言う恋愛が俺達に当て嵌められることに納得がいかない。
なぜ、俺なのだろうか。


「……ンだよ、その顔は」

「何でもない」

「言いたいことがあるならはっきり言え!」


この鈍感には何を言っても伝わらない。引き結んだ唇から分かりやすい言葉はなく、俺の不機嫌な表情で荒北の中の何がプツンと切れた。


「分かった。お前がンな態度を取るんなら、相手にもよーく教えてやんねぇとな」


着換え始めていた荒北が再び俺の前に立つ。そして今すぐやれと言いたげに顎で合図を出した。


「連絡しとけ」

「は?」

「いや、いいや俺が送っておく。あいつまたどうでもいいメール寄越してきやがって……」


ぶつぶつ呟きながら携帯電話を取り出した荒北が、勇気を出して送った彼女のメールを起動させる。短く用件のみの文章を打ち込んだらしい荒北が俺へ向けて指を差す。


「明日の昼休み、逃げんじゃねぇぞ」


悪いな、名前。
あんなに楽しみにしていた返信は、どうやらお前が喜ぶ内容ではないだろうよ。


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