あ、動いた。そう思ったのは錯覚だったらしく、もぞもぞと身じろいをする東堂の額をぺちんと軽く叩いた。カチューシャから抑え切れず流れている一房を摘まみながら「だめ」と制すれば彼は不服そうに唇を尖らせた。抗議しそうな気配を感じ先手を打って身体を寄せれば面白いようにびくりと跳ねてから、静止。薄らと染まった頬が隠し切れていなくて、それでも何とか逃れようと打開策を練っている彼は本当にかわいい。


「……名前、もういいだろう」

「まだ全然楽しんでない」


髪で遊んでもいいと許可をしてくれたのは他でもない東堂だ。艶やかで綺麗なそれを撫でながら呟けば、下からきゃんきゃん騒ぎ出す。彼の腰辺りに跨る私のスカートと擦れ合う衣服の音が情事のときを思い出させて眉が釣り上がる。何でもないフリをしている私と、その話題に触れてでも逆転したいらしい彼。


「この体勢なら別のことで満足させることが出来るぞ!」

「東堂」

「わ、悪かった……」


神聖な学校の廊下で何を言い出すか。私の身体に触れながらも本気ではないことは分かるが、その提案だってもちろん却下だ。まだぶつぶつ言っている東堂はきっと先程荒北に言われた言葉を気にしているのだろう。
あれは冗談だって、と言い聞かせても止まらない。恋人同士の戯れぐらい目を瞑ってくれればいいのに、わざと嫌悪感を表した荒北はからかうように「普通逆じゃナァイ?」と鼻で笑ってきた。
その前までは二人で笑い合っていたと言うのに、よっぽど嫌だったのか東堂は退いてほしい、と繰り返すばかりでちょっと煩わしい。


「やはりここは俺が覆い被さる方が……」

「真剣になるところが違う」


たまにはこういうのだっていいじゃないとノリノリだったくせに。そんなことを言う子はこうだ、と東堂のカチューシャを抜き取ってしまう。ン、だとか何とか綺麗な唇から零れたときは思わず私が口籠った。こいつ、分かっている。


「前髪長いね」


するりと落ち着く質感が羨ましく丁寧に解かしてそのコントラストを満喫する。掻き分けた先にある彼の目と目が合ったときがたまらなくぞくぞくする。自分で美形と言うだけはある、とそこだけは素直に同意。性格はちょっとあれだけど、そういうところも私は好き。
溢れてくる想いを抑え切れなかった。あれだけ自分で言っていたくせに、と後の彼に咎められようとも。美しい額にリップ音を乗せてから、切れ長の瞳に私を映し込ませる。たとえ彼が笑っていなくても、私の気が済んだのでもう終わりにしよう。


「名前」

「はぁい」


まず私が立ち上がり、彼に差し出す。どうぞと伸ばした手を取った彼は間違いなく不機嫌だった。


「お前じゃなかったら許せない我儘だぞ」

「勝手でごめんね」


奪っていたカチューシャを返せば慣れた手付きで元の位置に戻す。いつもの東堂だね、と笑い掛けたら溜め息を吐かれた。名残で赤らむ頬をからかわれる前に、私に移してしまおうと彼が動く。
口元目掛けたキスと耳を噛んでいく東堂は私のことを食べ尽くしてしまえばいいんだ。


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