式典も終わり、本日の主役達の中でも一際華やかな中心にいる彼のことは簡単に見つけることが出来た。女の子の惜しみや悲しみを一人一人慰めて優しい言葉を掛ける東堂先輩がいて、そんな彼を相変わらずだと評する男の先輩達の光景がもう見られなくなるのかと思うと、溜め息が出る。
彼は平等だから、卒業式の醍醐味とも言える制服のボタンやネクタイやらは早い者勝ちだと聞いた。予約をした子達から順番に渡していく様を遠くから眺める。割って入る気にもなれなかったが、最後にこの想いを伝えずにさよならするつもりもなかった。一方的に送りつけた迷惑なメールの返信は先程着ていた。やっぱり東堂先輩は特別を持たなくて、ずるい。
まるで裏舞台でもあるかのような、こんな素晴らしい門出には相応しくない閑散とした場所。誰にも見られないように徹底している彼は最後まで、彼らしい。
「悪いね、こんなところを指定して」
「いいえ。先輩が言うのなら、どこへでも」
着飾った表とは大違いで、むしろ主役にはもったいない。それでも告白には定番の場所なのかと、初めて訪れた裏庭を見渡す。落ち着きのないように見えた彼が私の名前を呼び、目を向けさせる。その顔はもう気付いているんですね、と伏せる。
悟った上で私から言うのを待っていてくれる東堂先輩。ストレートな告白が一番伝わるのは承知の上ですけど、ごめんなさい。
「抱きしめてください」
「……ん?」
両手を広げ、ほらほらと催促。固まってしまった東堂先輩がごほん、と区切るようにわざとらしい咳払いを一つ。
「箱学一の美形と言われた俺だが、こんな告白は数えるくらいしかないな」
「あ、やっぱりされたことはあるんですね」
まあな、と胸を張る彼に、素直に笑みが零れる。さすが東堂先輩、と茶化してみせると腕を下ろすように言われた。ああ、やっぱり振られてしまったか。
「だが、わざわざ呼び出されてそんなことを言われるとは思っていなかった」
「告白かと思いました?」
「当たり前だろう」
「じゃあ外れてませんよ」
好きですって目で訴える私にそうか、と視線を落とされる。そうなんです、だからあなたから拒否をされたら所謂それは失敗と同じなんです。こんなに人気のない場所でノッてくれるとは思っていなかったけど、勇気を出した私は頑張った。それもこれも、特定の誰かを作らない東堂先輩が期待を持たせるから悪い。
「好意を寄せる子達に平等なくせに、誰にも見られないように二人っきりになったり、徹底しているくせに、どうして」
本当は今日、東堂先輩に告白するのは禁じられているのだと知っていた。彼のファンクラブの子が言っていたのだ。最後に彼を個人的に独占するようなことは止めようと。限られた時間を割いてしまうことになるのは彼も喜ばないからって。多分私と同じ子は何人もいたと思う。
だからこそ、今日を選んでしまったと。
「なんで、分かっていながら、来てくれたんですか」
呼吸さえままならない私の言い分を聞いてから、東堂先輩が優しく頭を撫でてくれた。ちがう、欲しいのはそんな風に優しいあやし方じゃない。
「俺が一人を選んだらファンの子が泣くからな!」
「そうですね」
「……ずっと我慢していたが、もう良いだろうか」
ずるい、ずるいよ。何度だって言ってあげる。
声のトーンだけで惚れ直してしまうって赤面するのは大袈裟ではない。
嬉しそうに微笑む東堂先輩の顔が消えてしまった
「好きだぞ、名前」
瞬間、世界がぼやけた。