いつだって私のことなんて眼中にない、そう思っていた日はもちろん過去のことだけれど、世界の中心は君だと考えている視野の狭い私なんてギラギラ輝く太陽に向かって行く君はすぐに置いていってしまうのだろう。
ステージに上がり、甘く吐かれた溜め息に手を振る姿はあまりにも自然体でもう怒る気にもなれない。ファンサービスには過剰で彼女である私には微笑むだけなんて、不公平だ。でもこれが彼なりの私の守り方だと胸を張られたら表面上だけは受け入れるしかない。
俺を応援してくれるファンの子は大事にせねば。だから名前、人前ではお前を彼女としては扱えないのを許してくれ!
あーハイ、そうですか。文句を飲み込んだのは膨れる私を前にしても彼はその姿勢を崩さなかったからだ。
別に皆の前で手を繋ぎたいとか、声援を上げるファンにやめてほしいと思うわけではない。でも、そんなことを先手で言われたら納得がいかない。怒る私を宥める役目も上手いものでさらに苛立ってしまう。
東堂は私のことなんて本当は好きじゃないんじゃないか。埋まらない距離感は何度経験しても慣れやしない。聞こえる声は私なんて不要だと思えるぐらい弾んでいる。あなたといて笑える私と、私がいなくても笑えるあなた。
ファンに手を振っていたと思ったら、今度は携帯電話で誰かと話していた。昂ぶっているのがサイレントでも伝わってくる。巻ちゃん巻ちゃんと絶えずライバルの名前を呼ぶ彼の口を塞いでしまいたいと思ったのはこれももちろん昔のことだ。じりじり照らされる太陽の下、彼は今勝負をする。男同士の友情って暑くて、絶対に入り込めないね。言い聞かせて、今日は大人しく応援に徹することにする。


「名前ー!」


移動し始めた私の名前を全力で呼び、駈け寄ってくる姿に注目が集まる。
あれだけ気を使っていながら、どうして来るのだろう。


「何してるの、東堂」

「いや、お前が心配そうな顔をしているのがステージから見えたのでな!」


だから、この人のことは嫌いになれないのだ。人一倍嫉妬をしている私のことも愛してくれて、勝手に突き放されたと勘違いする私のことも許して、甘やかしてくれる。
がしがしと私の頭を撫でながら不敵に笑う東堂は本当に格好良い。ファンが悲しむからとか言っておきながら、いつもいつも私の不安を取り除くのが早い。それだけ見守ってくれているということは実感しているし、独りよがりな見苦しい嫉妬さえ受け止める器の大きな彼だ。


「……今からちょっとだけずるいことするね」


私達の関係を囁く声に便乗して、真実を投下してみせる。もう最後なんだからいいでしょうと、いっぱい我慢してた自分を正当化させる。
手繰り寄せた彼をパッと離せば、想像よりもずっと間抜けな顔がそこにはあった。


「勝ってこい!」


キスをした唇だけではなく、全部がじりじり焦がれるようだ。有名選手のスクープと赤い顔をした私を焼き付けて、彼は先を越されたと肩を落としてから頷いた。
くんっ、と勢いよく腕を取られたら触れるだけのそれでは済まされなかった。
仕返しと激励を一度に奪われて、困惑するけどもしかして彼も同じことを考えていたのかと気付く。


「俺のことだけ見ていろよ!」


私を置いていく背中を見ても、もう寂しくはない。与えてくれた称号を身に付けて、彼を近くに感じられる場所を探すために走り出した。


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