いつだって君との関係は平行線を辿っていて、それもいいかなって思っていた矢先のこと。
「あんたって何でそうなの!?ほんっとむかつく!」
「うっせぇな!お前こそ全然可愛げがねぇのな!」
休憩時間、言い合っている二人にどこにそんな体力が残っているのかと問いたいのだが、やるべきことをきちんと熟している主将とマネージャーの先輩に言える者はいなかった。
言っても止めない日常茶飯事には耳を塞ぎたいところ。ヒートアップするばかりのやり取りに飽きないなぁと誰もが思っていた頃に、一筋の色が差す。
「そんなことありません。先輩は美しい方です」
にょきっと、お互いしか見ていなかった間から湧き出た赤。びくりと肩を揺らして過剰に反応する二人は似た者同士だ。
「つーか赤司、今なんつった」
「俺は名字先輩のこと結構タイプですから」
さすがは赤司様、と様になっている彼を茶化すように言う虹村。
しれっと涼しい顔をしている赤司は表情を変えず、飄々と。
「赤司……!」
「あ」
「アア!?」
気付けば、後輩の体が彼女によって覆われていて。
感動しきっている名前は酔いしれるかのように頬を寄せていた。
うっとりと甘えた声で他の男の名前を呼ぶのを、それはもう情けない顔でわなわなと震えている虹村だった。そんな先輩で遊ぶ後輩は名前の背中に手を回し、ぎゅっと堪能するかのように力を込める。
完全に固まってしまった虹村の前で、今更のように告げる赤司はやっぱり淡々としていた。
「名字先輩、桃井が呼んでいました」
「そうだ!私が桃井ちゃんに頼んでたんだった!」
いけないいけないと呟きながらパッと赤司から離れる名前。
浮ついた熱など感じられない、そう思っているのはおそらく彼女だけだ。
名前を通して投げ掛けてきた赤司の好戦的な瞳と、負けじと睨み返す虹村の攻防戦など知らずに。
「ありがとね、赤司」
「いえ」
くしゃり、自分よりも背の高い赤司の頭を一撫でして走り去る、そう思いきや突然足を止めた彼女はくるりと髪を靡かせながら振り返った。
「虹村、さっきの続きはまた後でだからね!」
「あー……分かったからさっさと仕事しろ」
それは彼の方が正論だと思ったらしく、一度言葉に詰まった名前が悔しそうに舌を出して逃げた。
正直な気持ちなど言えるはずもなく、ぐぐぐと握り拳を作って生意気だと示す。くすりと隣で笑う優雅な後輩の真似など出来るはずもなかったが、負けたくもなかった。
「本当に、可愛らしい人ですね」
分け隔てなく接してくれて、自分のことを後輩扱いしてくれる、そういうところが好きだった。
虹村と口喧嘩をする間に入り、仲裁を務めるのも楽しいと思うようになってきた。みすみす取られる気はないのだが、こういう顔を見るのもまた一興である。
「……俺の方がずっと狙ってたのによ」
「初めて会ったときから名字先輩のことが好きでした」
にこり。惜しげもなく口にできる赤司のことを恥ずかしいと思いつつも、こうした策略的な駆け引きが必要なのも事実だ。ならば自分は真っ向勝負で挑もうと決意を新たにする。
顔を合わせれば言い合い、冷静な後輩が止めに入って、自覚をする。
さて、想いを告げるのは誰が最初になるのだろうか。