ほら、好きな子は苛めたくなっちゃうって言うあれみたいなものですよ。


「おい名前、あれは」

「あ、もう出来てますよ!」


わざわざこちらに寄ってきてあどけない笑みを見せる後輩マネージャー。
ぱたぱたと駆ける仕種やまだ幼さを残す姿につい、触れたくなってしまう。
もう用意しますか、と目をキラキラさせる彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でる虹村。そっぽを向きながら、こいつも成長したなと思う。


「準備がいいな。助かるわ」

「そんな!いつもやってることですから。イレギュラーなことに対処出来たわけでもないし……」


どんどん萎縮していく名前は先日の失敗のことを思いだしているのだろう。確かに、名前は突然のことにはテンパって冷静な判断力を失うし、言い方は悪いが大惨事になることもしばしば。
泣きそうになる可愛い後輩を甘やかしすぎて他のマネージャーに怒られるのも虹村の役目だった。しょうがないだろう、こいつが可愛いのが悪いんだから。


「ンな顔してる暇あったら練習しろ!今度はあれでもやってみるか?」

「はっ、はい!」


マネージャー業はもちろんのこと、バスケの知識も満足に知らないという名前。
そんな彼女の面倒をわざと買って出ているのはやはり下心からだろう。名前は虹村のことを優しい先輩だと慕っており、彼の言葉を信じていれば大丈夫だと思っている。
もう少し距離を縮めたら次は、等とステップアップを望んでいた。


「虹村先輩」

「赤司」


そう、あいつが来るまでは。


「次のミニゲーム、虹村先輩も出ることになってますよ」


チームの輪にいないのは虹村だけで、どうやら赤司は虹村のことを呼びに来たらしい。タイミングが悪いと頭を掻く虹村と、気にしないで下さいと言う名前。
尋ねる赤司に丁寧にその理由を話してみせると、赤司はわざわざ名前の肩を抱き、さも任せてくれというように見上げるのだった。


「この後は俺が引き受けます」


スコア付けを教えてやると言われた名前は実際のところ指南役など誰でもよかった。教えてもらえるなら喜ばしいところなのだが、マネージャー業もこなさなければならなく、虹村と赤司が言い合う時間の伸びが段々不安になってきた。別に今じゃなくてもいいし、彼らのどちらかである必要はない。


「これも主将の務めだからな」


ぐいっと引かれたときには虹村の腕に包まれていて、さっきよりも近付いた距離に心臓が高鳴った。名前が意識しているというのは赤司には見られていて、少し面白くなさそうな顔だった。


「名前、俺じゃ役不足かい?」

「そ、そんなこと……!」


こっちにおいでと言われているみたいに、撫でるように優しく指先を弄られる。
その手を取れと威圧的な瞳にぞくぞくと背筋が震えたとき、原始的に救い出したのは虹村だった。


「って、何触ってんだテメェ!」

「おっと」


名前の手を解放させ、未だ震えているように見える手を自分の手で擦ってやる。
良くないものに触れた後のようで赤司が不満そうにするので、名前は慌てて自ら脱出を図ることにした。


「あ、私まだ仕事が残ってるんでした!」


付き合っていたら大変なことになる。そう判断した名前はそそくさと体育館を出ることにした。二人への挨拶もそこそこに、自分の身だけを守るために。


「仕事熱心だなぁ。さすが」

「俺の名前」


お前のものではないと睨み合う二人が目撃され、想われる名前はただ仕事に励むのであった。
まだはっきりと分からない気持ちの行方、押されて芽生えるかもしれない恋心はまだ、眠らせたまま。


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