刻まれた短い文面に疑惑を覚えながら呼び出された昼休み。いち早くご飯を食べ終え、友達に断りを入れてから席を立つ。
何度も差出人を確かめたが及川くんからのメールに間違いなかった。ご飯食べたら来て、と簡潔に書かれた内容。そっけない冷たさを感じながら向かった先では腕を組んで壁に凭れ掛かる彼がいた。
私が来たことに気付いた彼と目が合うと、ぴりっとした空気が刺さった。用件は、と求めようとした私の腕を取り、そのままどこかの教室へ傾れ込む。
二人だけの空間に鍵を掛けて、廊下から見えない場所へ移動する。まだ白い消し跡の残る黒板を眺めていたら、こっちを向けと言わんばかりに壁に押し付けられた。
いつものスマートさが欠けているが、焦っている様子はなかった。苛立ちをぶつけられても、理由が分からないから困る。
固唾を飲んで見守る私に嫌気が差したのか、作り物めいた笑みを浮かべる及川くん。


「名前ちゃんから強請ってよ」


ぞっとするような圧迫感に動けなくなった。いつもの及川くんじゃない。ここは言う通りに、彼の機嫌をこれ以上損ねない方がいい。
分かっているのに、伝えられる言葉がすぐに出て来ない。私の願望ではない、彼の求めていることをしなければならない。そう考えると余計に頭が混乱してしまう。


「何でもいいから、ほら」

「及川く、」


彼がそれらしい雰囲気を作り出しつつ強要してくる。後頭部辺りから髪を撫でて下りてくる手が首筋を翳めた。それはあまりにも不意打ちすぎて、私はつい心臓の高鳴りと一緒に身体を揺らした。
私ばかりが意識しすぎていて恥ずかしかった。俯く私の意志なんて彼にはこれっぽっちも伝わっていない。及川くんの険しい顔が見えずに、そっと距離を取る意味さえ読み取れなかった。


「他の男には触らせるのに?」


顔を上げたら何故か傷付いているような表情を浮かべている及川くんがいて、反論するより先に不吉な予感が過ぎった。


「本当は俺のこと……」

「待って!」


駆け引きとか上手く立ち回るとかどうでも良かった。こんなところで切り出されるのは嫌と言う一心で格好悪くもしがみついた私を、及川くんはどんな風に思っているのだろう。
冷静さを失った迂闊な行動だと後悔することになったとしても、咄嗟に引き止める私は彼のことを離したくなかった。
ずっと慣れた振りをしていた罰が回ってきたのだ。彼が言う遊んでいると、私の言う遊んでいるは合致していない。ここで頑張らなきゃいけないのに、震える。
指は制服の裾さえ掴めやしない。そのうち及川くんが見えなくなる。終了の音は、いつになく涙を誘う声音だった。


「やっぱりいい」


そうやって一人取り残された私は、歪んだこれからのことを思い巡らせながら座り込んだ。



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