想いを告げたのは私からだった。ずっと前から好きだったが、フラれて話せなくなるのは嫌だった。多分、及川は私のことなんて何とも思っていない。それでも、積もり積もった気持ちを伝えたくなったその日、私は逃げ道を用意しながら、彼に言った。


「私、及川くんのこと好きかもしれない」


へらりとぎこちない笑みを添えて。及川くんの反応次第で切り替えるつもりだった。冗談だよ。やっぱり気の迷いかも。
嘘を吐いて誤魔化す準備はばっちりだったのに、怖くて心臓の音が速く聞こえる。じっとこちらを窺う及川くんの顔は笑っていない。
早く、早く。急かすように深く刻めば、時間を掛けて及川くんは口端を歪めた。


「じゃあ、付き合う?」


淡々と紡がれた軽い声音は私の中に爆弾を落とした。思い描いていた展開のはずなのに、どこか疑わしいものがあった。きっとそれは彼も同じだ。お互い、信じられるものなど何もない。


「その代わり、一番にはしてあげられないけど」


重いと悟られてはいけないとこんなときでも笑顔を作る私。甘えた声を出しながら、内心ではドロドロとした感情が止まることなく流れ続けているようだった。


「俺は名前ちゃんのこと好きかどうか分からないし、部活もあるから時間を割いてあげられない。要はお試し期間みたいなものかな」

「仮ってこと?」

「っていうよりは、二番目?」


好きにさせる努力、頑張り次第。そんなにベタなことではないと思った。
くすりとわざとらしく私の耳元に声を寄せる及川くんはむしろ、遠ざけるように。


「君だって、俺のこと本当に好きかどうか分からないデショ?」


本当だったら怒る場面だったのかもしれない。及川くんの頬を叩いて、涙を流して非難して。
それで本気だって言えたらどんなに良かっただろうか。まあ、彼が気付いてくれるかどうかは別として。
離れてもなお不敵な笑い方を見せる及川くんは、私を一番にするつもりがない。本命はきっと別にいて、私にも他の相手がいると思っている。ああ、ひどい話だ。


「ねえ、遊びたくない?」


それでも、私は彼の特別になりたかった。一生懸命慣れたふりをして彼との距離を詰める。
言及しない彼が伸ばした私の指に己の指を絡めてきた。それから先は決められたもののように、初めてのキスをした。触れるだけで充分のそれは、私達の関係をスタートさせる合図。
どうしたら好きになってもらえるのか、なんて健気にはなれなかった。
この関係がずっと続くならどんなことでもする、とその時の私は不健全なことを考えていた。



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テーマ「人外ファンタジー」
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