追われてるんだ、と苦笑する彼は廊下ですれ違うはずだった無関係の私を巻き込んだ。
呆れる私の腕を取り無人だった空き教室に滑らせる。勢いを殺さずに埃っぽいカーテンの内側へ身を隠す。シルエットでバレバレだと思い、溜め息を吐いて抜け出そうとする私を及川が抱きすくめた。背中が窓にぴったりとくっ付く冷たい感触と熱い息遣いが伝わる口付けが一気に押し寄せてくる。
身体が強張るが、すべてを押し殺すように堪える。ひらひらとぎこちなく揺れるカーテンが最後、私はぎゅっと瞳を閉じた。廊下ではバタバタと騒がしい足音と、彼を探す女の子の声。
私達の影は見えているはずだが、特定までには到らないのだろう。多分彼はそれを計算していて、こんな無意味なことをしている。与えるスリルを楽しむように、とでも言うように。


「……呼ばれてるよ、及川くん」

「そりゃあ、逃げてるからね」


くすぐったいノイズ。前髪を掻き分けて額に唇を落とす彼。畏縮している私を見越しているのか穏やかな手付きで背中を撫でた。悟られちゃいけない、今さらのようにきつい口調で咎める。


「何をしたの」

「ん?名前ちゃんは心配しなくていいことだよ」


まだ聞こえる甘い声。教室の扉が開いて悲鳴にも似たそれが上がる頃、私はまた及川くんとキスをしていた。重なり合う陰影に踵を返す空気が伝わってきて、してやったりという顔が映る。
息も絶え絶えの私とは大違いで、彼は本当に手慣れている。自由に動き回る舌も、頭を拘束する大きな手も、私の大好きな人のもの。
しがみつく行為に拒否はない。優越感に浸らせてくれる及川くんが、離れる。


「”彼女”は、ね」


そうやって都合の良いときだけ省くのは絶対確信犯だ。一気に冷え込んだ私の夢心地。
二番目の彼女だって、そう言えばいいじゃない。


ロゼッタと夢の中
(君に近づいて、触れて、満たされたい)



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