思い出しては赤面してしまう私は重症だった。真っ向から愛されたわけでもないくせに、気を抜いたらもっとって求めてしまいそうになる。
火遊びと気まぐれが重なったとき私達はそういう行為をするものだと思っていた。そのはじまりが昨日で、熱はいつまでも絡み付いていた。
てのひらの感触が忘れられなくて、同時に彼に会いたくなかった。これ以上はキャパオーバーなのは目に見えていて、情けなくも余裕がなくなっていた。
それなのに、どうしてこういうときにばったり会ってしまって、かつ話し掛けてくるのだろうか。
お互い一人、及川くんは何でもない顔をして走ってくる。ここで逃げても何だかおかしくて、警戒するように少しだけ身を引いた。楽しそうに笑う及川くんは、昨日のことなんて知らないと言う顔だ。


「ご機嫌いかが?」

「何それ」

「ほら、笑って笑ってー」


くしゃくしゃと頭を撫で、極めつけは腰を屈めて「ね?」と駄目押し。
やばい、今絶対少女漫画みたいなことになっている。効果音にするならきゅんってハートが飛んだ。
笑えるわけがなくて唇を噛みしめる私にしょうがないと彼は悟る。ぽんぽんと乗せられた手は昨日私に触れていたそれだ。ますます言葉に詰まってしまうが、及川くんはお構いなしに自分のペースでしゃべり続ける。まるで、触れてほしくないとでも言うかのように。


「及川と名字さん?なんか珍しい組み合わせだねー」


廊下で話していたら、通りかかった女子二人組が私達のことを指した。
私では彼女の名前なんて分からないのに、及川くんは慣れたように誰ちゃんと誰ちゃん、と甘いトーンで紡ぐ。
ずきりと圧し掛かる重み。私だけじゃないってことは分かってるのに、どうしようもなく悔しくなる。いつも通りの及川くんとか、他の子を下の名前で呼ぶことへの嫉妬とか。


「えー、もしかして付き合ってるの?」


恋愛絡みの噂には参っている。有らぬことを広められてうんざりってこの前話したばかりだ。
なのに、及川くんの友達の言葉に私はパッと彼の顔色を伺ってしまった。及川くんとなら噂になっても構わない。遊び相手に本気になってしまう、そういうエッセンスになり得るかもしれないと、心のどこかで、期待していたのだ。
私が聞かれたら即答してしまうだろうけど、及川くんなら。探るような目に応えて微笑む。
彼は、やっぱり私と同じ答えを口にした。


「ちがうよ」


他の言い訳なんて口にせず、それだけ。そうだよねってはしゃぐ女の子達を適当に相手をして、私だって嫌だよって冗談を交える。
時折向けられた目には合わせられなかった。動揺が、伝わってしまう。


「じゃあ行くね、及川くん。名字さんもバイバイ」


浮き足立つ彼女達は今の出来事を友人に報告するのだろう。及川くんと名字さんは付き合ってないんだって。おそらくやったね、ってフリーである及川くんへの恋をまた加速させる。こんなにも愛されるなんて、罪な人。


「二番目だなんて言われたくないデショ?」


何も言っていないのにそうやって私へのフォローを入れる彼。へらへら笑いながら饒舌に語って見せる姿には正直苛ついた。
二番目の私へ余計な駆け引きは必要ない。本来であれば私が彼へすべきなのだ。
一番にしてもらうために。私を、好きになってもらうために。


「これでも気を使ってあげたんだけどなぁ」


及川くんは悪くない。ここは気丈に笑って強がる場面だ。
挑戦的な台詞とか、オトしてあげる笑みとか、嘘にも取れるアピールを。


「ひどいなぁ、及川くん」

「……ああ、ごめんごめん」


へにゃりとした声には面倒臭そうな返事。こんなことで泣きそうになる私にはもう構ってられないと判断したらしい彼が手を振る。
じゃあね、と最後にまた私の髪を掬っていく。どうしようもなく惹かれていくのに、二番目止まり。



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