たくさん考えて、私は短いメールを彼に送ることにした。誤解したままのさよならはもう二度と彼との接点をなくしてしまうような気がしたからだ。
会いたい、会いたい。
抑え込んだ感情の中にごめんなさいを忍ばせる。顔を合わせたら伝えてしまいそうだったが、薄っぺらい謝罪の言葉なんて彼はきっと要らないはずだ。
受け身すぎたことが原因なら、私からいってみよう。駄目だったときは、諦めるしかない。最後に試して、語って、それで。
キスでお別れとか出来たら、良い思い出になるかもしれない。
私はどこまでも彼に合わせようとしてしまう。誰とも付き合ったことのない私がそれらしく振る舞って、余裕に見せて、本気を隠して精一杯楽しむようにする。
本当は嬉しくて幸せで死んでしまいそうなのに、そんなに必死な想いなんて君は嫌いでしょう?


「及川くん」


最近密会の数が増えてきたなと思う。すれ違っても挨拶すらしなかった秘密の関係だったのに、少しずつ背徳感を占めてきている。そんな風に割り切った顔で私は彼の前に立つ。
どこまでも意地っ張りで格好付けだ。


「あのね、私」

「昨日のことだけど」


黙って聞いてほしかったのに、私が優勢に立ちたかったのに。
不意に抱きしめられた腕の中、何も言えなくなってしまった。もう触れられないと思っていた温もりがそこにはあって、ちゃんと伝えようと思っていたのに急に怖くなった。
余計なことを言ったらこの手を離されるのではないか。許してくれるのなら、このままの方がいいかもしれない。
そうして今日も彼に委ねてしまった私はもう、落ちていくだけだった。


「嫌なら、拒んで」


泣きそうだと思っていた及川くんの瞳が近付いてくる。そのまま降ってくる唇を受け止めて、あやすような口付けをした。
全然通じ合わない気持ち、消化されるだけの行為。どんどん深くなるキスにだって愛がないことは気付いていた。それでも、私から拒む選択肢は残っていなかった。
リップ音が響いて唇が離れて、間髪入れずに下がっていく。慣れた手付きで外された制服のボタン、隙間から入り込んだ舌が私の素肌に触れた。強張る私は何も言えず、それが彼には我慢しているように見えたのだろうか。
降参しないならとでも言いたげに、歪む。


「名前ちゃん、触っちゃうよ?」

「……っ……」


挑発の色を含んだ目に射抜かれる。好きな人だからどんなことをされても良かった。
律儀に覗き込む及川くんは私の返事を待っていて、緊張で息も絶え絶えの私は頷くことしか出来なかった。ふーん、と一瞬で変化する及川くんの表情。
またやってしまったと思う頃には、もう別の声しか上げられなかった。
大きな手が滑るように撫でていく。髪を撫でて、弄ぶように指先を掬って、露出している足を挟む。
今までしたことのなかった何もかも。文字通り触れ合っているのに私達の距離はちっとも近付かないような感覚が、眩暈に似た頭に焼き付いていく。



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テーマ「人外ファンタジー」
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