ハニードロップを頂戴 | ナノ


同じ高校というだけで失敗し、違うクラスだったことに喜びを感じる。彼らが居る場所には行かない、姿を見掛けたらすぐに逃げる。
徹底しているのは私だけではなく、おそらく彼も同じことをしている。
未だこじらせている思春期みたい。意識しまくりの私は、忘れたと言い聞かせながらも、今もまだあの頃の記憶が脳裏にこびりついている。

「天ちゃんせんせーは、っと……あ」

集めてきたノートを抱えながら覗いた職員室。天ちゃん先生の前に立つ数人の男子生徒に気付き私はあからさまな反応をした。
今行っても良いことなんてない。クラス全員分のノートを持って教室に帰るのは嫌だけど、後で先生に怒られるかもしれないけど、出直そう。それがいい。

「あら、名字さん!」

ぎくり。回れ右していた私の背中に刺さった思いの外大きい声。
完全に気を抜いてしまっていた私に堪えられる腕力もなく、集めてきたノートを廊下にばら撒いてしまった。迂闊だった。今回は天ちゃん先生に時間も指定されての回収だったから。

「ごめんなさい、ちょっと待っててね」
「先生、俺が行きます」

私の丸まった背中に聞こえてくる声。駆けてくる足音は天ちゃん先生のものではないと何となく気付いてしまった。はやく、はやく。あの人じゃないことなんて、分かり切ったことなのに。

「大丈夫?」

手渡されたノートと、あの頃と変わらない笑い方。でもやっぱり昔とは違う。そっと窺った後方では私達のことを見つめて、わざとらしく逸らす彼。
無視しているのはお互い様だけど、話すことなんてないけれど。動揺している私を見透かしているみたいに、橘はすばやく拾い集めたノートを綺麗に揃えてくれる。

「はい、名前ちゃん」
「……名前で呼ばないで」

どれだけ冷たくしても変わらない態度で接してくれる人もいれば、私のことなんて見向きもしない人もいる。

「ありがとう」

運んでくれそうだったモーションを先読みして、私は半ば強引に奪い取って歩き出した。
俯いて、七瀬のことは見ないようにして。どうか、葉月が騒ぎ立てたりしませんように。

「集めてきたノートです。お願いします、先生」
「はい。ありがとう」
「それじゃ、失礼します」

あの指すような視線には堪えきれない。逃げるように後にした職員室から教室まではひたすら、振り向かずに一直線。私がずっとそうやってきたみたいに。
これで良いはずのに、全然気持ちは晴れなくて、苦しい。

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