事情を語る前、彼らの次の手に私はまんまと嵌ってしまったようだった。一番睨み付けてくるスケボー少年の視線が外された。ざわめく大通り、無理矢理流された映像が再生される音がする。
許されたように、示されたように。それは私の懐からも同じで、受信されていた端末を手に取る。彼らの目的が明らかになったところで、易々と罠に掛かりに行ってしまう。

まるで、脳裏に焼き付く映像が現実になったような鮮明さだった。
映し出される絵はまぎれもなく、私がこの目で見たもの。夢の中で不確かに眠る残片。
私が探すはずであり、傍にいる理由。


「なんで、この時のが……?」


トツカ タタラ。その名前さえ忘れてしまっている私が、なぜあの場所にいたのだろう。
そしてこの人物は一体誰なのか。あの場所で一体何があった?


「お前何か知っているのか」


そんなもの、こっちが聞きたいぐらいだと。


「っ、……知らない!」

「うわっ」


感情的に跳ね除けたら、私の身体から放たれたのは赤い炎。体格の良い男が慌てて私のことを離した。コンクリートに膝をつき、よろよろと立ち上がる。こんなところで目を付けられるわけにはいかない。先程問い掛けられた言葉も誤魔化せるだろうか。


「テメェ、俺らと戦う気か?」


そうなる運命ならば、しょうがない。構えた私に向き合うスケボー少年がにやりと笑った。
その顔は舐めてるね。すごいむかつく。


「落ち着きや、八田ちゃん」


私と、八田と呼ばれたスケボー少年の間に入ってきたのは一番落ち着きを見せている人。
明るい金髪にサングラス。顎に手を添えながら私と視線を合わせ、唸る。


「んー。君、どっかで会うたことある?」


あ、ちょっと傷付いた。でもまあ覚えているわけないか。それだけ私も大人になって変わったっていうことで。そう信じたい。


「お久しぶりです、草薙さん。……周防さんはお元気ですか」

「尊?」


草薙さんと周りの人の声が重なるあの人の名前。特にスケボー少年は慕っているようで、私が彼の話を出したことにより余計にうるさくなる。ヒントなんて出すんじゃなかったと、今になって後悔。もう会うこともないと思っていたのに。


「まだセーブ出来ていないなんて、教え子失格ですね」


もう少ししたら抜け切ってしまうであろう赤い炎。感情に負けて抑え切れないなんて情けない。まあ、あの人が見たら顔色も変えないだろう。何も言わずに無雑作に頭を撫でてくれて、それで私が嫌がって、ようやく、笑う。ああ、いけない。


「すみません。関わりを持つ気はありませんので、失礼します」


そこで懐かしい思考をストップ。頼るのはだめだ。私一人で立ち向かえるようにならなきゃ。
私は彼らの仲間ではないから。彼らのように、傍にいられない。


「草薙さん、知り合いっすか?」


ナチュラルに逃げ出した違和感はすぐに気付かれてしまう。走ってその場を後にした私を八田さんが追ってくる気配。
投げ掛けた疑問にはすぐに答えは返って来ないので、ひとまず捕まえることを優先して。


「もしかして、あの時の……」


2人の姿が完全に見えなくなった頃に、ようやく記憶の断片が繋がってきていた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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