相手の目的はおそらく伊佐那くんだけだから、私まで逃げる必要はないのだろうけど。まあ成り行きと言うか、見て見ぬふりは嫌だったと言うか。


「待てコラー!」


縫うようにひたすら走ってみる。あの顔はどこかで見たことがあるようなないような。


「知り合い、じゃないよねその顔は」

「うん……」


伊佐那くんも困り気味だ。やっぱりここは人混みに紛れて行方を眩ませる手が一番か。
滑らかなスケボーテクで追い掛けてくる少年のことを振り返る。


「軽トラ!」

「えっ」


その判断の良し悪しはすぐに分かった。軽トラの後ろに乗り込んだはいいが、すぐに信号に捕まって足が止まってしまう。まずい、追いつかれると身を乗り出した身体が引っ張られる。
伊佐那くんに助けられて後ろにひっくり返る刹那、私達のことを裂くように散るのは、赤い炎。
見開いた目には次の刺客。軽トラから飛び降り、挟まれたときには明らかに劣勢な状況だった。このまま捕まるわけにはいかない、と目配せをした私達の道は一つしかない。迷わず、細い路地に身を滑らせた。そんなところまでスケボーで追い掛けてくるものだから感服だ。


「埒が明かない……こうなったら、迎え撃つしか」

「物騒だよ名字さんー!」


正直負けるだろうけど、私だって囮ぐらいにはなれる。このまま伊佐那くんだけを先に行かせて、後ろから来る奴らの足止めを何とか。ここを抜けた裏通り、そこが勝負だと身構えていたらつい足が止まってしまった。
先を走る伊佐那くんはあの人のことを知らないだろうけど、私は見たことがある。
まずい。塞がれてる。


「どいてどいてー!」

「捕まえたぜコラァ!」


立ち尽くす私の首に後ろから腕が回った。ぐんと羽交い絞めにされたまま様子を窺えば、その正体はスケボー少年だった。抱きしめるなんて温かいものではなかったが、触れた。私の頭の中には沸き起こる巡りと、金髪の青年の指先が煙草を弾く仕種。
使いたくなかったが、しょうがないと奥歯を噛み締める。ポケットにしまっておいたクラッカーを迷わず、引いた。空中に放たれたのは赤と赤。左右から飛び交った赤をきれいに片付けてしまうのは黒い青年の役目だった。

願わくばそれでけりが付けば良かったが、そう甘くはなかった。追い掛ける形で私の放った弾丸も伊佐那くんに向かっていく。赤い炎を纏い、燃え落ちる紙吹雪の塊。
私のことを離し、スケボー少年は刀で無にしてしまった黒髪の青年の元へ走る。振り返る彼の顔は整っていて、戦い方も鮮やかだと思った。ちょっとチートっぽいけど。成す術なしだな、という台詞はしまっておく。あんなに粋がっていたスケボー少年を簡単に黙らせてしまった黒髪の青年は呆ける伊佐那くんを抱きしめ、そのまま、逃亡。

黒髪の青年は夜刀神狗朗。確か草薙さんと言っただろうか、その人のおかげで明らかになる彼の名前。


「しゃーない。次の手、いこか」


そう言って端末を操作する指。私も移らないと大変面倒なことになってしまう。ただはいそうですかと逃がしてくれるわけもなく、一番体格の良い男に首根っこを掴まれよく見えるように差し出される。


「で、テメェは誰なんだよ」


それこっちが知りたいですと、私は真っ向からガンを飛ばしてくるスケボー少年にわざとらしくぷいっと視線を逸らした。

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