学園祭準備の真っ只中。空気を乱さない程度に作業していた私達の班は半分だらけていた。意外と細かく、黙々と打ち込めるほど集中力はない。あっちでふざけ、こっちでふざけ、笑うだけで疲れてしまっていた状態の中、のんびりと入ってきた伊佐那くんと、はきはきとした菊理のことを交互に見比べる。
戸惑いの中で、にんまりと私の隣にいた友人が笑った。


「菊理、うちの班も足りない材料があるんだぁー」

「え!それは困ったな。シロくんに買いに行ってもらう?」

「いやいや、きちんと見立ててもらわなきゃ困りますから。ねえ、名前?」

「ん?…………あ、うん!そうなの!」


ああ、何も分かっていなさそうな菊理のきょとん顔が申し訳ない。そして協力と言わんばかりの友人のドヤ顔ウインクが憎らしい。別に無理にくっつける必要はないのに。押せば落ちるわけでもないし、第一伊佐那くんのこと恋愛面で考えたことはない。言えやしないけど。


「じゃあ、一緒に行こっか」

「うん」


誰がどう思うと関係ない。白々しく緊張している風を偽って、私は伊佐那くんの後に続いた。


「なんか、ごめんね」


出来れば彼に嫌われるようなことはしたくはない。私の曖昧な記憶、突き止めるために付き纏う行為を知っていてなお笑い掛けてくれる優しい彼。こんなに穏やかな彼があんな物騒なことしないかもしれない、何度思ったことだろう。
でも、消えない。


「領収書、忘れないようにしなきゃね」


謝ることないよって勝手なお節介も許してくれて、何気ない会話をしてくれて。
当たり前の日常。ごく普通なやり取り。


「そうだね」

「んー、良い天気」


2人並んで青い海を見つめる風景は青春だよね。
ニセモノは、私だけで十分なのに。





「いつも思ってたんだけど、この和傘目立つよね」

「えへへ、そう?」

「人混みの中にいても簡単に見つけられそうだよ」


ただのクラスメートであり、上辺だけの距離を保つ私達の間にはそんなラブチャンスは訪れない。人が行き交う中ではぐれそうになっても手を繋ぐなんてイベントはやってこないし、伊佐那くんがそんな優しさを見せても私は断るのだが。
良い目印になるね、と笑う。まさかこんな何気ない一場面を見られていたとは知らずに、暢気なものだ。

きちんとおつかいを済ませている伊佐那くんの隣で、私はまあこれでいいかと適当に選んでみた。パーティーなどで使うクラッカー。まあ出てきたリボンなんかは飾り付けにも役立てるだろうと、どうせ目的の品などないのだから怒られることもない。


「それでいいの?」

「開けてみてからのお楽しみ」


それを知っている伊佐那くんと笑い合う。パアン、と弾ける音の想像はまさに、はじまりの合図。
突っ込んできたスケボーの少年が振り回したバットを避けるとき、そんなことを思った。


「な、なに!?」


いきなり何なんだ、とこっちの困惑など諸ともしない。腕時計を操作し、映し出された映像と伊佐那くんの確認。
間違いないと笑うものだから、これはもう逃げるしかないと、私はとりあえず伊佐那くんの動きに合わせる準備をしていた。

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