知らなかった彼らのことが少しずつ分かっていく。伏見猿比古、八田美咲。
繋げていく名前。彼らの関係性。
相変わらず、裏切り者、抜ける。
積み上げていくピースが嵌った瞬間、私は推測する。もしかして伏見さんは元吠舞羅のメンバーなのか。それが今は対立するチーム。仲間を大切にする赤なら納得がいく。


「尊さんが捕まったの、何のためスか!」


そして新しい情報。あの人の名前が出て、ハッとなったのは八田さんだけではなかった。何それ、捕まっているってどういうこと。周防さんが、誰に。もしかしてと私の頭に浮かんだのはセプター4のトップ。何を考えているか分からない、掴みどころのない人。
周防さん。懐かしい顔を思い出していたら、場面は展開していた。


「猿……テメェ、死んどけぇ!」

「伏見、緊急抜刀」


怒りに似た赤い炎と冷静さを備えた青い炎。こういうとき、大体勝つのは後者だと思う。身を任せすぎなのは良くない。
放出する量を見ていてもそう見えてしまった。荒業の前で的確に攻める加減。
実力差なんて私ごときが測れるわけないのだけれど。でもこんな場所で暴れられても困る。私は走り出し、フードを被った人の後ろに回った。駆ける音に気付いた視線は三つで、全然隠しきれていなかったらしい。


「何してるんですか!早く止めなきゃ!」

「あれあんた、何でここに?ああ、そう言えばここの生徒か」


あの二人の間に割って入る勇気はさすがにない。火達磨になりそうだもん。
だからこの人を頼ったと言うのに鈍いなぁもう!


「ゲッ……変態女!」

「ちょっとそこのセクハラ男!」

「ああ、あの時の」


私達はお互い意識している面子が異なっていたようだ。けれどそれは束の間のトライアングル。
すぐに用無しと言うように逸らされた視線。


「下がってろ」

「格好良いなぁ、美咲」

「うっせえ!」


付け入る隙などなく、止める力もない。動揺ばかりが空回り。そのうちに八田さんにナイフが刺さり、その身体が転がった。息を飲み、伏見さんが見せる炎の色。青と赤。今と昔の証。


「に、二色……?くそっ」


そうか、それであいつ私で試そうとしていたのか。二色を操る彼の新たな興味。失敗作は捨てるだけ。彼の判断は正しかった。
そうだよね、もう手の内なら、私なんて大した存在じゃないもんね。


「ああ?出しゃばってんじゃねぇ三下!」


男の戦いに余計な水を差すなと言っているみたいだ。下らないプライドを壊してやりたい。
ひっくり返るパーカーの人の後ろで一度は後ずさった私は震えた足を再び前へ。


「猿の言う通りだ」


最後の忠告が突き刺さる。肩に刺さったナイフを引き抜き、敵を見る目で私へ寄越す。


「お前も、引っ込んでろ」

「そもそも出来ることなんてないだろ?」


ああ、馬鹿にされている。こんなにも無力さを恨んだことが今まであっただろうか。
要らない力。日常とはかけ離れた存在。でも曖昧な立ち位置。


「手ェ出すな」


むかつく。見下してるのも、眼中にない感じも。私だってただの一般人じゃないのに。
止められる力がほしい。部外者じゃなくて、どうせなら中心に立っていたい。どうして私は、王になれないのだろう。


「お、おい……」


パーカーの人が伸ばした手を睨み返す。構っていられない、今の私には。
割って入りたい思いが暗く、濁った色の炎を作り出す。誰にも触れていないのに私の身体から溢れ出す色。しっかり目撃されていた、そんなことには気付かずに。
へえ、と新たな可能性に唇を歪めるも伏見さんの視線の先は八田さんだったから。

暴走せずに済んだのは、二人のを駆け抜けた攻撃のおかげだ。ハッとなって炎が消えたのと同時だった。瞬きをしながら、元の私もそちらを見た。


「双方そこまで」


淡島さん。音にはせずに、相変わらず気高い女性の名前を紡いだ。

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