信じると言ったのは私で、彼もまたそう返してくれた。信じ合うことは大切だと思っていたのに、何故こうも受け入れられないのだろうか。
それは多分、私が何も話していないからで、同時に彼のことも知らないからだ。分かり合う以前の問題。そんなもの必要ないと言ったらそれまでなのだが、果たして本当にそれで良いのか。少なくとも私は、今、迷っている。私の曖昧な立ち位置は、彼らの探す真実の情報には成り得ない。勝手な判断を後悔していた。
ふう、と漏れてしまった溜め息。隣に座った人物を盗み見すれば、彼はこちらなど気にしていない模様。戻ってきた伊佐那くんはどこか上の空で、挨拶をしたと思ったら私の隣に座って考え事。私も同じだったから二人揃って暇そうにしていた。本人達はそれどころじゃないんだけどね。
だがいつまでもそうしてはいられない。菊理からおつかいを言い渡され、伊佐那くんと私は腰を浮かせる。


「お散歩―!」


ノリノリなネコを先頭に、私達は伊佐那くんに案内された別ルートから外に出る。何でこの人は端末を持ち歩かないんだろう。夜刀神くんに説明している伊佐那くんの声を聞きながら、便利なのに、と私は後ろを振り向く。
皆が当たり前にそうしている光景を焼き付ける動作の中で、この学園には見慣れない人物。あの後ろ姿は、どこかで。そうこうしている間にもその背中は遠ざかっていく。


「どうしたの、名字さん」

「忘れ物か」

「あー……うん」


気になってしまった。この前のこともあるし、調査という意味でも。見間違いなら追い掛ければいいだけだ。場所は分かるから先に行っててと伝え、ゲートから中に入ろうとする。外出記録がないのにまた入ろうとする私を阻む音。後ろから爆笑する声に手を振り、私は赤い彼らを追い掛けた。


「なあ、こいつ知らねぇか?」


ひたすら聞き込みをする彼ら。確か八田さんと……あれ、誰だっけ。私を摘み上げた人だけど名前は分からないや。
すごく古典的な探し方で、結果は皆が皆知らないと言う。あれほど似ている伊佐那くんの名前を出さずに、知らないと。何だか妙だと思った。赤のクランに怯えて回答しないならまだしも、自然体で首を振る面々。伊佐那くんが手を回している?いや、そんなことはないか。
私にとっては不思議な光景を、彼らと共に辿る。物陰に隠れてひっそりと。真剣、なんだな。


「八田さんアレ行きましょう」

「っ……次行くぞ」


女子生徒を指差すパーカーを被った人。それに答える八田さんは頬を染め、先を急ぐように。
何だ今の。どういうことだ。私の疑問はすぐに明らかになる。それよりもう一人、何だか知っている姿を見掛けたような気がするんだけど、まさかね。

パーカーの人が乱暴に声を掛けて、八田さんがそれを鎮めて。極め付けはこれだ。


「女ビビらせてんじゃねぇ!殺すぞ!」


また顔を赤らめて、握った拳は震えている様子。ちょっと、私の時とずいぶん態度ちがいじゃない。面白くない。
まあ出会いが敵の認識だったからかな。それにしたって、私の前では見せない顔だ。


「女に手上げるなっていつも言ってんだろうが」

「いや、手なんか上げてないし」


正論だ。今のはちょっと聞いてて笑ってしまった。
八田さんは良く言えば女の子に慣れていないのだろうか。


「男のことは男に聞けば十分だろうが」

「えええ」

「相変わらず童貞丸出しって感じだなぁ」


可愛い人なんだな。そんな自分の純な感想に重なってきた声は、姿は。
私なんかよりよっぽど、彼らにとって因縁のある人。青い人、セプター4の一人。


「テメェ……猿比古!」


あいつは、と私は思わず乗り出してしまう衝動をぐっと抑え、体勢を低くして彼らの会話を聞いていた。

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