伊佐那くんが映像の人じゃない証拠を探そう。そう言うことになり、何故か衣装に着換え始める三人を眺めながら、私も12月7日の記憶を引っ張り出す。学祭準備に追われながら、色んな事件があったんだよね。
遅いと怒り顔で出した菊理を見て、それは確認に変わる。三科くんが菊理に堂々と告白し、玉砕!学内新聞の一面を飾ったことを今でも覚えている。


「と言うことがあってだね」


わなわな震える菊理。恥ずかしかったよね、うんうん。


「三科くんも頑張っただろうに」

「もう、そのことはいいでしょ名前!」


散々言われた話題を今更蒸し返すなと言った顔で怒る菊理。その時の時間を確認するも、近くで見ていたらしい伊佐那くんとは会っていないらしい。私も同じだ。頷いたら、別の場所を探してみようと言うことになった。
あの日は本当にはちゃめちゃな事件が多かった。

生徒会、新聞部、職員室。
段々機嫌が悪くなる夜刀神くんにビビりながら、伊佐那くんはようやく潔白を示す一つの証拠を見つけたと胸を張る。先生から拝借してきた紙には生徒の情報と記録。私達は端末がなければ外に出られず、自動ゲートで皆チェックされている。リストに乗ってないから伊佐那くんはあの日、ずっとこの島にいたことになる。犯行は不可能。
そう言うのだが、君はどこかのうっかりさんか。


「端末持ってないじゃん」


自販機の前、小銭が足りないと探る後ろから伸びてきたのは菊理の手。押し付けられた端末を見ながら鋭い視線を送る夜刀神くんと菊理の間で、伊佐那くんはシーッと唇に指を当てていた。


「ズルして通っちゃうんだよね、この人」


あちゃあ、これでさっきの証明は無になってしまう。
分かったと斬りかかろうとする夜刀神くん。伊佐那くんを守ろうとするネコ。
黙って見ていた私だが、ネコを背にして向き合う伊佐那くんと何かを思い出している夜刀神くんを見ていたら身体が勝手に動いてしまった。


「私も」


伊佐那くんの隣に立ち、震えた声を絞り出す。


「私も、伊佐那くんのこと信じたい!だから、信じる!」

「にゃー!名前良い奴にゃ!」


どうやら冷静になろうと言う訴えは必要なかったらしいが、言葉にすることは大切だ。夜刀神くんの眉間の皺もなくなるのを確認し、私自身もそうだよ、と安堵。
ぽんと肩に置かれた伊佐那くんの手が、温もりが、窒息させるようなナイフ。


「僕も、信じてるよ。名字さんのこと」


だけどそれは、複雑である。私にその権利はないんだと、柔らかな微笑みに苦しめられる。
私はニセモノでガラクタ。偽りで固めている私を信じてくれなんて、言えやしないのに。
その後、菊理と伊佐那くんが見たと言う体育館倉庫に移動した。天井に空いている穴を見つめながら、二人がここで会った時間が12時30分だと分かる。
犯行時間から1時間以内。やっと得た証拠に伊佐那くんは胸を撫で下ろし、夜刀神くんもひとまず落ち着いたらしい。

クラスを仕切ってくれる頼れる転校生。そんなポジションになってしまった夜刀神くん。そんな才能もあるんだね、と今は軽口を叩けなかった。
教室で皆がせかせかと働く中、私は菊理に働けと怒られるまで、ただ頬杖をついてボーっとしていた。

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