いやぁ、人生どうなってしまうか全く予想が出来ないものだ。本当に。
あわよくば吠舞羅の方々と仲良くなるチャンスだったかもしれないのに、逃げ帰ってしまった上に恥ずかしいところを見られ、もう会わす顔がないレベル。すべてはあの青い人のせいだ。もう会いたくない。
そんなこんながあって、次に学校に登校してきたら夜刀神くんが普通に伊佐那くんの後ろにいるし。
何それどういうこと。一体何があった。
「うーん……まあ、色々あって」
「そっか。色々あったんだね」
曖昧に笑う伊佐那くんに問い質す理由はない。だって私も、昨日はどうしたのって聞かれたらきっと誤魔化してしまうもの。今が答え、おそらくそう言うこと。
夜刀神くんお手製と言うお弁当のおかずを羨ましそうに覗き込んでいたら夜刀神くんが溜め息を吐きながら卵焼きを一つくれた。良い人だ。
「……美味しい。すごく、美味しい!」
「そ、そうか。……何なら今度、作り方を」
「是非!ご教授願います!」
実はそんなに悪い人じゃないんじゃないかと思えてくる。端末で見ている映像はあの日の夜のもので、探し人を凝視していた。視線を辿ると一回り、無邪気で明るいネコと呼ばれた女の子はどうやらいつも伊佐那くんの傍にいるネコらしい。人生何が起こるか分かりませんね。
「えーっと、ごめんね。お邪魔しちゃって」
確かにあのネコは、私の傍には寄ってこなかった。最初こそ威嚇され続けていたが、それでもめげない私を気にしなくなっていった。友好的な態度など一度もない。それは今も同じで、苦笑するように作った表情はぷんっ、と一蹴されてしまった。
「こら、ネコ」
最愛の伊佐那くんに叱られ唇を尖らせる彼女。だってー、と語尾を伸ばし私のことを指す。
「ワガハイは名前のことがあまり好きではないのである!」
今のはちょっとキタ。ガン、と頭の上に岩が乗るような衝撃。揶揄だけど。
また怒ってみせる伊佐那くんに平気だよと声を掛ける。だって、と彼女が続けた言葉は、私がずっと抱いていることだから。
「シロのこと疑ってるんだもん」
彼女からしたら、私なんて正に邪魔者だ。都合を押し付ける身勝手さ、優しい伊佐那くんに対する甘え。
伊佐那くんは彼女のもの。そう言い張る様からしたら、相当の。
「でも、素直だから嫌いでもない」
私は伊佐那くんのことが友達として好きだ。だから彼じゃなければいいと思っていて、独自にだがあの夜の人を探している。疑いを晴らす証拠を見つけたい。これは正直な気持ちだ。
伊佐那くんじゃないと信じているから、彼といると楽しいから。
「早くしてね」
彼の傍にいるのは嫌々ではない。その気持ちは伝わっているみたいだ。ネコのように無邪気に笑う彼女はすばやく私のお弁当に指を突っ込んだ。盗まれるおかず。明るい笑い声。
「あ、それは私の!……ネコッ!」
「にゃはは!ネコだよーん」
許してくれる彼女もまた優しいのだと思う。いや、そこまで興味がないだけかな。
私がもし伊佐那くんを突き詰めるようなことがあったら、迷わずネコは間に入るだろうから。
そんなこと、私自身がさせない。するわけがない。
「ごめんね」
目の前のアンマッチに見える三人組が、見透かしているように表情を緩める。
まるで昔から仲が良かったように感じるのに、手にしている端末の画像がそれは違うと言い張るようだった。