いてて、と指先を見ながら入ってきた背の高い男の子。ネクタイの色からして、彼は一年生だ。
「素足隊長ーばんそうこうくれー。火傷したぬーん」
「お前はまた……ちょっと待ってなさい」
その生徒の元に星月先生が向かう。その背中を見ながら、私はそうだ、と小さく呟いた。
彼は生徒会の、天羽くんだ。
「ほら、名字」
寂しくなった隣を埋めてくれるかのように、陽日先生がお菓子もあるぞ、と勧めてくれた。お礼を言いながらチョコレートを貰って、私は手当てを受けている男の子の方に目を向けた。
すると、ナイスタイミングで彼と目が合ってしまった。
「お、アメちゃんあるか!?」
「こら、何しに来たんだお前は!」
「ぬはは!もう大丈夫だって!」
「怪我を甘く見るな。そこに座ってろ」
「ぬーん……」
まるでコントのようだ。星月先生に怒られて拗ねている天羽くんの目はこちらにあるお菓子を狙っている。「羨ましいだろ」と彼の目の前でお菓子を食べている陽日先生。大人げないな、と苦笑いしていたら天羽くんが「うぬぬ、ずるいぞチビ先生!」と言った。
なるほど、日頃の行いを晴らしているのか。
「終わったぞ」
星月先生の言葉が聞こえて、天羽くんが妙な動きでこちらまでやってきた。
テーブルの上に広がっているお菓子を見て、その後で私を見る。威圧感はないが、見下ろされているだけで平常心ではいられない。
「あれ、お前……」
私に何か、言おうとする前に、彼は満面の笑みになって私の前に座り込んだ。
「もしかして名字名前か!?」
「え……そうです、が」
なぜ名前を知っているのだろう。そして彼のこの笑みの理由は?
私が問う前に、天羽くんはしゃべり始めた。
「ぬいぬいが面白い奴がいるって言ってたんだ!もう一人の女子ってことはお前だろ!?」
盲点だった。天羽くんは生徒会の会計で、当然生徒会長と親しい。出所は彼か、と頭が痛くなった。そのままスルーしてほしいのに、彼のキラキラした目が私を阻む。
何この用があります的な流れは。
「俺と友達にならないか?」
目を見開いて彼を凝視してしまった。ぬは、と少し照れながらも笑っている天羽くん。
そのストレートな言い方に、私は戸惑うばかり。
「仲良くなりたい!どうだ?」
「え、あっ、あの……」
ずるい。そんな目で見られたら断れないじゃない、と思う。実際断る理由なんてないと思うけど、こんな感じで友達になるのは有りなのだろうか。
分からない、だけどこの期待に満ちた目で見られたら嫌だなんて言えるわけないじゃない!
「……はい」
天羽くんと携帯番号やアドレスを交換して、彼は人数分のお菓子を持って逃げていった。
陽日先生が「こらー!」と怒っているので逃げたという言い方は正しい。
私は新しく登録されたデータを見てどうしていいか分からない感情に襲われていた。だけど今はそれどころじゃない。携帯を仕舞って、目の前に座る陽日先生を睨みつけた。
「……あからさまにニヤニヤしないでください陽日先生!」
「いやぁ、だって嬉しいだろ先生としては」
さっきから陽日先生はこんな感じだ。もしかして天羽くんの襲来も陽日先生が絡んでいるのだろうか。
素直にそう聞けば、マジな顔で「俺がそんなことするわけないだろ!約束は守るぞ!」と言われてしまったのでまた謝る羽目になった。
なんておかしな日だ。