むしろそういう扱いの方が気が楽だと思うようにもなった。相手は絶大のカリスマ性を誇る一樹会長だ。そんな人と私が釣り合うわけもなく、最初から冗談だとからかわれた方が返しやすい。
嘘だと分かっている上で成り立つ茶番に乗れないほど、私は空気を読めないわけではない。本気で聞かれたらあの時のことを思い出して顔が赤くなりそうだから。早口で捲し立ててこちらのペースに持っていきたいわけなのだが。


「名字さん、一樹のことよろしくね」

「うまい堂に連れて行ってやりたかったんだが、お前とは出掛けられないな」


いつものように爽やかな笑みを浮かべている金久保先輩と、少しばかりしょんぼりしている宮地くんに呼び止められて、この話題。言葉に詰まる私に、読みにくい二人の視線が注がれる。
えーと、なんて濁してみても返ってくるのは変わらない表情だけ。


「宮地くんは置いておいて、金久保先輩まで冗談きついですよ」

「あはは、ごめんね。でもそれじゃあ一樹が泣いちゃうよ?」

「知らないです」

「なんだ、事実じゃないのか」

「もちろん。あと宮地くん、うまい堂には行きたいよ!」


クリスマスパーティーの時のことを見ている人、そして部外者の私が時折生徒会室に出入りしていること。
二人しかいない女子生徒の動向と言うものは私が思っている以上に筒抜けで、同時に尾ひれが纏わりつくようであった。そんな根も葉もない噂を聞いたのが宮地くん、とまでは納得できる。そして尊敬する金久保先輩もそう言うお遊びに乗るのだ。それじゃ信じてしまうだろう。
出掛ける予定は後で立てることにして。それにしても宮地くん、相手がいるなら控えようとするなんてしっかりしてるな。


「実は、僕は桜士郎に聞いたんだ。一樹に聞いたら怒るだろうから、真相を教えてくれないかって。まあ、こっそり聞いてた挙句それを記事にしようとしてたのがバレて一樹にみっちり絞られてたけどね」

「相変わらずですね」


あの日、聞き耳でも立てられていたのだろうか。とんだジャーナリスト魂だな。
私はまだ会ったことはないが、生徒会室によく遊びに来る、というのは知っている。


「それって白銀先輩でよね。変人で有名の」

「うん。名字さんは会ったことある?」

「いいえ。何回か後をつけられたことはありますが、いつも拒否をしていました」


えっ、と重なる驚く声。あれ私は何かおかしなことを言っただろうか。
突然問い詰めるように顔を寄せてくる宮地くん。金久保先輩の声にも焦りに似た感情が乗っている。


「何かされたのか!?」

「僕から注意もしておくけど、良かったら話してくれる?」

「え、え、落ち着いてくださいお二人とも!」


思い出すのはシャッター音と、神出鬼没な白銀先輩。インタビューなんて言いながら追い掛けられたこともある。学園に二人しかいない女子生徒をピックアップしようと思ったのか、比べようとしたのかは分からない。
私は冷淡女を貫いていたし、それならそれでネタになると考えていたのだろうか。


「ってわけです。一年のときに数えるぐらいで、それでも私は会いたくないと思っているので、生徒会室に来るって分かったときは逃げ出しています」

「それを、不知火会長や青空は……」

「変態だから、で通るからね」


そしてそこまで気にする相手ではないのだ。目立つのも嫌できっぱり断ったのにしつこかった。あの時の私は皆を突っ撥ねていたし、それは白銀先輩も同じだ。
でも今更あの時はすみませんでした、と円満に行きたいとも何となく思えず。会いづらい、それが一番の理由かもしれない。何せ変人だし。


「怖い思いをさせてごめんね。僕と一樹で叱っておくから」

「もう過ぎたことなんで、いいですよ」

「だめ。こういうのはしっかりしておかないと」

「そうですね。現に名字はトラウマになっている」

「いや、そんな大層なものでは」


眼中にないですし、あの人。そりゃあ一樹会長や金久保先輩は仲の良いお友達かもしれないですけど。
でも事実は隠せないでしょう?、と言われて詰まってしまった。別に白銀先輩いい気味だとも思わないし、私はどちらでもいいのだが。正義感の強い宮地くんも頷いているし、目に余る行動だとおそらく一樹会長も怒るだろう。


「名字さんのためでもあるけど、桜士郎のためでもあるよ。まあ一番は、君を怖がらせた罰だろうけど」


ふふっ、とまた笑う金久保先輩。余計なこと言わなければ良かったかな。ごめんなさい、白銀先輩。でも少し改正した方がいいとも思いますので、ご勘弁を。
話はまとまり、金久保先輩は教室に戻っていく。それを見送り、私と宮地くんもそれぞれ教室に戻る。

この時の私は何だか珍しい話をしてしまったな、とずいぶん昔に見たっきりの人物を思い描く。
数時間後に対面を果たし、ほぼ初めてとも言える会話をすることになるとも知らずに、ただのんびりと。

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