次の日、待ち伏せされていたみたいなタイミングで移動教室への道に立ち塞がっていたのは水嶋先生だった。
「昨日はどうも」
「……こんにちは」
なぜここにいるんだ。あんたは天文科だろう。陽日先生の傍から離れるんじゃないよちゃんと目を光らせておけよ!!
「ふうん」
「ちょ、っと……!」
この人の纏う独特な空気は苦手だ。近付いてきた水嶋先生から距離を取ろうと下がっていたらいつのまにか背中に壁が当たっていた。
ハッと後ろを向いてから顔を前に向ける。思っていたよりも近くに水嶋先生の顔があって、私は息を飲んだ。
「離れて、ください」
やっとの思いでそう言ったのに、水嶋先生は余裕綽々だった。フッと笑って吐き出された言葉に、私は一瞬何を言われているのか分からなかった。
「会長君の言うとおりだね」
「はっ……?」
だけど、すぐにその言葉は昨日のことに結び付く。憐れを含んだ笑い方で私を見下ろす水嶋先生は確か、夜久さんを気に入ってるとかなんとか。ああそう、真正面から人をバカにするなんてふざけた奴だ。
「……誰かさんみたいに可愛くなくて悪かったですね」
「気を落とす必要はないよ」
いや、あんたの態度に振り回されるなんてごめんだよ!というかその話題を振ったのはあんたの方だろう!
言いたいことはたくさんあるが、実習生とは言え、一応教師相手の彼にオブラートかつストレートに伝わる言い回しが見つからなくて黙ってしまった。
先に口を開いたのは彼で、なぜか私の頭には彼の手が乗っていた。
「君に興味があるよ、名前」
その笑い方はやめてくれませんか。何か裏があるようにしか見えないんですが。
普通だったらドキドキするような言い方なのに、なぜか私はサーッと血の気が引いていく。
水嶋先生はかっこいい。だけど、怖い。
「彼女と比べてとか見た目とかの話ではなく、ね」
何を考えているのか分からなくて、私はそう言い残して去っていく水嶋先生の後ろ姿を見ながら震えていた。