「よし、お前ら!今日も張り切って行くぞ!」

「おおお!!」


あちこちから上がる歓声を聞きながら、私はぎこちなく辺りを見回した。

不知火会長が言っていたのはこれだったのか、と溜め息。だけど言うほどテンションは下がっていない。
クリスマスパーティーの手伝い。私の他にもたくさんの生徒達が参加していて、準備は賑やかに行われている。

その様子を見ながら漏れるのは小さな笑い声。そう言えば、私はクリスマスパーティーに参加したことなんてなかったな。去年は確か部屋で引き籠もってたんだよね、懐かしい。
だからこそ、こんなに楽しげな場所だとは思っていなかった。


「名前さん」

「青空くん!」


にこりと穏やかな笑みを向けながら近付いてきた青空くん。彼だって忙しいはずなのに、私のことまで気遣ってくれるなんて、優しい人だ。


「会長が無理を言ってすみませんでした。本当に良かったんですか?」

「平気だよ。最初は意地でも逃げてやるって思ってたけど、でも」


散りばめられたキラキラとした飾り。たくさんの人の協力する声。
今まで閉じ籠もっていた自分には、とても考えられない瞬間だ。


「こんなに楽しいお手伝いなら、私からお願いしたいぐらい」


私がそう言って笑えば、青空くんもそれ以上は何も言わなかった。「では引き続きよろしくお願いします。くれぐれも無茶はしないで下さいね」と釘を刺して足早に去っていく。
心配性というか何というか。嬉しいけど。


「さて」


続きをしよう。自由に飾り付けが出来るって楽しいよね。
何のオーナメントにしようかな、と選んでいる私の視界の端に入ってきたのは、台座に上ってサンタを飾ろうとしている月子ちゃんだった。


「ちょっ……!」


私は慌てて体勢を整え、彼女の元まで向かった。落ちたら危ないし、それにスカートじゃ危ない。色んな意味で。
そう促そうとしたが、役目は彼に取られてしまった。

不知火会長が月子ちゃんに声を掛け、彼女がパッと振り返る。頬を赤く染めているところを見ると、おそらく私が思っていたことと同じ内容を彼から言われたのだろう。
彼らの言葉なんて私の耳には入ってこない。不知火会長と月子ちゃん、二人が目を合わせた瞬間から、私の身体は立ち尽くしたままだ。

邪魔をするつもりなんてない、いつの間にか言い訳のような言葉を並べて言い聞かせていた。


「月子は下に降りてなさい」


ようやく聞こえてきた言葉はそんなもの。目を見開く私の視線の先で、不知火会長はいつものように笑って月子ちゃんの身体を持ち上げ、地面に下ろした。
困惑しているのは月子ちゃんだけで、その後不知火会長はさらりと彼女の手からサンタのオーナメントを取り上げた。

仲が良いと微笑ましく思える光景のはずなのに、どうして私はここで立ち止まっているのだろう。
明るく笑って彼らに近寄ればいいじゃない。心配したよって月子ちゃんに駈け寄ればいいじゃない。

一度身体ごと彼らに背を向ける。けれど、気になってしまってちらりと様子を窺う。
月子ちゃんの頭を撫でる不知火会長が見えて、またよく分からない感情が私の中に広がった。

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