最近、星月先生の様子がおかしい。

心配そうにそう零す月子ちゃんを、私はどうやって元気付けたらいいのか分からなかった。

保健室にいる回数が少なくなって、どこか自分に対する対応も冷たい気がする。
先生達に相談しても、そんなことはないと言われた。

月子ちゃんは保健係で、星月先生の世話をよく焼いているというのは私も前から知っていた。星月先生は適当に仕事をしようとするけど、本当はそんなことないって分かっている。
誰よりも生徒のことを考えてくれている星月先生だからこそ、理由もなく月子ちゃんを突き放すとは考えにくい。


「名前ちゃんは、星月先生と話してどうだった?」

「え、ええっと……」


思えば、一番最近星月先生と話したのはいつだっただろうか。


「……覚えてない」


意外だ、という顔で大きな目をぱちくりさせる月子ちゃんに、私は苦笑いを返すしかなかった。





正直、私は用がなければ保健室に行ったりしない。
健康体だし、ただ遊びに行くにしてもタイミングを窺ってしまい、なかなか実行に移せなかったりする。

そんなことを月子ちゃんに打ち明ければ、「じゃあ今日の放課後に行こう!」と計画を立てられてしまった。
当の本人は部活があると行ってしまって、けれど私は今しっかりと保健室に向かっていたりする。


何だかんだ言って、星月先生の様子が気になっているのだ。


「ちょっと、あなた」


聞き慣れない女性の声。私がパッとそちらを向くと、その女の人は綺麗な笑みを浮かべながら私に近寄ってきた。
近くで見ると、さらに美しさが際立っているように見える。

見惚れていたら、彼女の方が先に口を開いた。


「保健室はどこかしら?」

「……っあ、はい!こっちです!」


すっかり硬直した身体をほぐすように、彼女は「そんなに怖がらないで」と言った。
溜め息に近い返答をしながら、私は彼女を見つめる。
そういえば、この人は一体だれなのだろう。


「名字名前ちゃん、で合ってたかしら?」


隣に並んで歩き出しながら、彼女はそう言った。


「え!なんで私のこと……?」


後悔したのは、彼女が大人の女性の雰囲気を醸し出しているからだった。

いちいち過剰な反応を取り、立ち止まってしまった私をバカにするわけでもなく、彼女は柔らかい声音で私に近付いてきた。
そっと、温かな感触が頭の上に被さって、にっこりと笑ったのだった。


「琥太郎がずっと心配してたのよ、あなたのこと」


頭の中を、色々なことが駆け巡る。整理が追いつかなくて、目が回りそうになる。

加わったのは、いつもは聞かない彼の鋭い声。


「姉さん」


2人で声のした方に向き直れば、そこには確かに星月先生の姿があった。


「琥太郎!」


嬉しそうに星月先生の名を呼び、そちらに駈け寄っていく。
星月先生の後ろにはいつの間にか水嶋先生もいて、見かねてか放心状態の私の元まで来てくれた。


「アホ面」

「だ、だって水嶋先生……?」


いまいち飲み込めない状況。星月先生と彼女を小さく指差せば、大きな溜め息をついたのは星月先生だった。


「姉さん、あまり名字を混乱させないでやってくれ」

「あらやだ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね」


与えられるのを待っていて、求めることが出来なかった。


「私は星月琥春。よろしくね」


そこでようやく確信に変わっていく。

とりあえず、すでに知られている名前を名乗り、私は勢いよく頭を下げたのだった。


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