さて、まだ時間があるからどうしようかなぁと一人でブラブラしていた。
先生達や月子ちゃんと一緒にいるのも楽しいけど、やっぱり一人も気楽でいい。

「目立つからね、あの人達は」と声に出さずに笑った。


何か食べようかな。あ、このカップケーキとか美味しそう。

私がそれに手を伸ばせば、隣から小さな声が聞こえた。気まずそうに、だけど声を掛けてしまった、という様子が見て取れる彼。
とりあえず、名前を呼んでみる。


「宮地くん」


彼も会計の最中らしい。大きな袋に入れられているのを見ると、1個だけ買おうとしていた自分が急に恥ずかしくなった。
どうしよう、と急に小さくなる私に宮地くんは眉を寄せる。


「買わないのか?」

「あ、うん!買う!でも迷っちゃって」


あはは優柔不断なんだよね私、と急に饒舌になる。早くこの場から立ち去りたいと思う。
しかし宮地くんはなかなか動かないし、自意識過剰かもしれないが目線が私の買い物を待ってくれているようにも見える。


「俺は、これがオススメだ」


きれいな指先が示す先へ目を追わす。宮地くんの声が続き、たくさん食べたんだなということが分かる。

優柔不断なのは嘘じゃない。そして人に言われれば、買う気がなかったものも良く見えてしまうから不思議だ。


「じゃあ買う!あ、これとこれもお願いします!」

「おい、大丈夫か」


まさかという声音。だけど私は続けた。


「だって宮地くんが美味しいって言うから。食べてみたくなった!」


あ、こっちも追加でとクッキーを手に取った。けれどそれは宮地くんに押さえ込まれてしまった。


「それぐらいにしとけ」

「はい……じゃあそれでお願いします」


さすが鬼の副部長と言われてるだけあるね、とは言えず。威圧感に潰され、私は黙るしかなかった。
宮地くんより小さな袋で貰って、その場から離れる。

いつの間にか一緒にいるみたいな雰囲気になってるけど、これ以上隣にいるのも変だよね。
私がタイミングを窺っているとき、宮地くんはいきなり振り返った。


「おい」

「何でしょうか」

「お前、あれも食べたかったのか?」


あれ、というのは最後のクッキーのことだろうか。
よく分かってないまま、頷いておく。


「少し、やる」

「え?」


伏せていた宮地くんの目が私を捕らえる。そういえば、こうして2人で話すのって初めてかもしれないな。


「同じの買ったから、味見させてやるって言ったんだ!」


強く言い切る口調。
だけど、全然怖くない。威圧感は消えてしまった。


「だから俺が言ったからって、全部買おうとするな」


困った奴だって言ってるみたいに、眉を下げて穏やかに笑う。
宮地くんは今、私を見ている。あまり話したことない私に警戒心などない。
わりと怖い印象があったので、すごく安心した。


「優しいね、宮地くん」


だから、こうも簡単に滑り落ちていく彼への言葉。
面白いぐらいに、予想通りの反応だった。


「なっ……!」


顔を真っ赤にした宮地くんは何も言えないようだ。私はわざととぼけたフリをしてあれ?、と彼を見上げる。


「宮地くん、以外と照れ屋さん?」

「う、うるさい!からかうな!」


彼とも話せそうだ、と私は嬉しくなった。悪かった印象が拭えるなら一番いい。


「あー!副部長が抜け駆けしてるうう!!」


抜けるような大声が聞こえ、びっくりしてそちらに目をやった。その頃には、私達に近付いてきていた彼ら。

小さな後輩らしき男の子が前の2人を止めようとするが、勢いは止まらない。


「副部長と名字がなんで一緒にいるんだ!?」

「一匹狼だった名字となんて宮地もやるなぁ」

「さすが宮地先輩です!」


ぐちゃぐちゃじゃないか。私が宮地くんを見れば、彼は苦々しい表情で怒鳴るのを堪えているようだった。
私だって困りますよ。いきなりこんな迫られても。


「部活仲間?」

「ああ」


単調な私達の温度を、彼らは読み取ってはくれない。


「俺、2年の白鳥!」

「同じく2年の犬飼だ。よろしくな」

「どうも……」

「先輩達ずるいです!あ、僕は1年の小熊です!」


でも月子ちゃんの部活仲間だし、こう挨拶されたら私も覚えようと思う。

だけどそんなすぐに打ち解けられる性格でもないので、話が弾むわけではない。
それはあちらが勝手に喋ってくれるので一応助かった。


「最近名字の性格が柔らかくなったって聞いたんだが、マジだったんだな」


何その噂になってんだよ、みたいな。
私ごときのことがそんな出回るとは思えないけど。


「ははは……そんな好きで気取ってたわけじゃないですよ。一人寂しい奴だったってだけですし」

「じゃあ今日から俺らが友達だ!」


豪快に笑う白鳥くん。ニヤリと笑いながら、犬飼くんが私に視線を寄越した。


「今は普通に友達募集中?」


笑うところなんだろうなって思って、私も唇を引き伸ばす。
なんだか彼らは悪友って感じ。いつか皆で宮地くんをからかえればいいな。


「前から絶賛募集中でした」


はは!、と声に出して笑った犬飼くんにふっと力が抜けた。
こんな風に、もっと早く友達になれてたら違っていたものもあるんだろうな。


「僕も、よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね。小熊くん」


私が答えたぐらいでぱあっと輝いた笑みを見せてくれる、小熊くん。
可愛いなぁと和んでいたら、「チッ。小熊ばっかり」「抜け駆けだな」「わわ、やめてくださいよー!」また騒がしくなった。


「はいはい、落ち着きましょうねー」


お菓子ありますよ、と先生のように配ろうとすると何だ何だと寄ってくる3人。
聞き分けいいな、ってこれじゃ本当に引率みたい。


「お前ら、打ち解けるの早すぎじゃないか?」


私もそう思うけどね、宮地くん。


「きっと波長が合うんだよ」


だからきっと、思い描く日々はすぐそこに。


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