隣のクラスは教室を使わないらしい。
外で模擬店をやると聞き付けた私達のクラスは頼み込み、自分の教室と合わせて2つの場所をゲットした。
片方は占い、もう片方で雑貨を販売し、休憩スペースも設ける。準備は2倍だがうちのクラスはやる気満々で盛り上がっていた。
「名前ー!!」
光を遮断するために黒いカーテンを持っている私ごと、翼くんは自分の腕の中に閉じ込める。
ぶへっと間抜けな声を出した私を大声で笑いながら、ゆっくりと私を離した。
「久しぶりだなー、名前。ぬはは!」
「うん。忙しそうだね、翼くん」
ちらりと見れば、すぐ先で不知火会長や青空くんが生徒指導にあたっている。
サボっている生徒に促したり、予算の相談に乗ったり。
「翼くん、仕事しなよ。私だって準備忙しいんだよ!」
やってもやっても終わる気がしない。
それでも楽しいから、皆と作業なんて去年は味わえなかったから。
私がきつく言うと、翼くんは唇を尖らせた。
「俺だってちゃんと仕事してるぞ!名前は全然分かってない!」
本当かよ、と心の中で呟く。しかしこうしてサボっていたら私も人のことは言えない。
そろそろ戻ろう。私は腕にある大量のカーテンを抱え直す。
「じゃあね、翼くん。生徒会頑張ってね」
踵を返す私に、真剣な声。
「待って、名前」
立ち止まった私に、翼くんは躊躇いながら問う。
「もう、誰と歩くか決めたか?」
「どこを?」
「スターロード」
首を傾げる私に間髪入れずに返す。ああ、と私は頷いた。
あのロマンチックなスターロードを誰かと歩ければ、そんなことを去年は思っていたが、友人すらいなかった私にはどうでもいいことになっていった。
まさか翼くんにスターロードのことを聞かれるとは思わなかった。
「なんで歩く前提なの。行くかどうかすら決めてないよ」
苦笑い気味に答えれば、翼くんはぱあっと笑みを浮かべた。その変化に思わず腰が引けてしまう。
「じゃあ、俺達と歩こうな!」
なんで行くのが決定してるんだ。
ぬはは、と楽しそうに笑いながら小指を絡めてくる翼くんに乾いた笑いが漏れる。
なんとなく、分かってはいるが念のために聞いておく。
「で、翼くんの他はだれ?」
俺達と言っている以上、ここにはいない第三者がいるのは明らかである。翼くんが「ぬ?」と笑う。
そんなことも分からないのかって顔をしているように見えるのは、私が都合の良い解釈をしているからだろうか。
翼くんは、知っているのかな。
「もちろん俺と名前と」
ドキンドキンと高鳴る心臓。興味がなさそうな素振りを装って、だけどそれが深みにはまっていく。
「梓の3人だぞ!」
梓くんはそれで了承したのかな。
頷きながら、私はそんなことを考えていた。