新学期がスタートした。
久しぶりに会ったクラスメート、皆と休み中の思い出話に花を咲かせていれば、扉には彼の姿。

私に用があるとは限らないけど、目が合ったので私は彼の元に駆けていく。
夏祭り以来の、梓くん。


「どうしたの?」


私がそう聞けば、梓くんはふっと笑う。
そして「つまらないことを聞かないでくださいよ」とバカにするように言った。


「な、つまらないことってなに!」

「じゃあ愚問です」


彼の言いたいことが分からなくて、私は逆ギレ気味に答えてしまった。

恥ずかしいという気持ちもある。
クラスメートの視線が、痛いほど刺さってくるのだ。


「名前先輩に会いにきたんです」


まっすぐに言い切る。フラッシュバックする、あの時の記憶。
真っ赤になりそうな私は、わざと「な、なんで!?」と照れ隠しのフリをする。

見越した彼は、くすりと笑う。そして私の後ろに見せつけるように、私の耳元に唇を寄せた。


「会いたかったからに決まってるじゃないですか」


私にしかその言葉は聞こえなかったと思うが、沸騰しそうなほど熱を持った私の顔で勘づかれたであろう。

囃すような、騒ぎ立てるような。慌ただしくなった教室を見回して、梓くんは言う。


「愛されてますね、名前先輩」

「なっなっ…!」

「でも、僕の方が思いは強いですから」


ぎゅっと私の手に触れて、すぐに離す。
梓くんを見ると、満足そうに笑って軽く頭を下げた。


「とりあえず、翼より早く会いたかったんです」

「は、はぁ……」

「じゃあ名前先輩、また」


失礼しますと言い残して梓くんは帰っていった。まるで嵐が過ぎ去ったよう。


「……なるほど、木ノ瀬は夜久狙いじゃないんだな」


静かに自分の席に戻ろうとしている私に向かって飛んできた言葉。クラスメートが私を見る目は様々。

その言葉も、目も、一応オブラートに包んでくれたのかもしれないけど丸分かりですから!


「……知らない!」


確かに梓くんは変わった。
あの夏祭りの時に吹っ切れたような顔が、さっきの梓くんのこれからの姿勢なのだと思う。

私は、どうしたらいいのだろう。
誰に相談したらいいかも分からない。

もやもやとした私を見守るようなクラスメートの視線は、少しウザかった。



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