帰省したら友達と見に行くはずだった夏祭り。午後から集まって、さっきまで話に花を咲かせていた。
そして今、すべての準備を終えた名前が数十分前に受信されていたメールに気付く。
そこに記されている内容を読んで、思わず小さな声を上げてしまった。
「何々、もしかして誘われた?」
「あっ……!」
気心知れた、プライバシーの欠片もない友人の手に渡った携帯電話。届いたメールを読み上げて、にんまりと笑いながら名前に返した。
「青春してるじゃん」
「……ちがう、ただの後輩だよ」
避けていた色恋の話題にまた元通り。女子生徒が二人しかいない学園に行った名前がどんな生活をしているのか、先程まで根掘り葉掘り問い質されていたところだ。
「で、どうするの?」
「断るよ。だって、こっちの約束が先じゃない」
帰省する前から決めていた約束。慣れた手で、だけど確実にゆっくりと名前の手が断りの文面を打ち込んでいく。
「でも、行きたいんでしょ?」
ピタリ、友人の声に手が止まった。
「そんなこと、ないよ」
顔を上げて、名前はそう言った。
確かに誘いのメールを受け取ったときは嬉しかったし、行きたいと思った。
後輩とは言え、異性と夏祭りなんて青春してるみたいじゃないか。
だけど同時に、怖くもあった。メールにはわざと書いていないように見える人数。
発案が翼ならいくつかの可能性がある。翼の気まぐれ、生徒会のメンバー、そして一年生。
実はそれが、一番行きたくない理由でもある。
「私、彼氏と行くつもりだったんだ」
えっ、と名前が携帯から友人に目を移す。
笑って、彼女は続けた。
「名前がその子と行くなら、私は彼氏誘うから大丈夫だよ」
「でも……」
友人に出来た彼氏の話はさっきまで話していたので、それが強がりでないことは分かっていた。しかし、それは気を遣いすぎである。
「平気。今の今まで……ほら、めげずに連絡してくるんだから」
そう言って握られている彼女の携帯はメールを受信していた。
溜め息をついてメールを確認する。
「女友達と一緒でもいいから、って。まったく」
呆れたような素振りだが、それは本心ではない。心からそう思って、名前は愛されてますねぇ、と呟いた。
「名前のことが心配だったから、二人で会いたいと思ってたんだ」
目頭が熱くなった。自分がおもしろおかしく話していたことを、友人はどんな気持ちで聞いていたのだろう。
「でも、安心したよ」
私が一人でいいと笑うたびに、何も言えなかった友人が、初めて笑ってくれたような気がした。