ああやってくれたな、と思う頃には私は先輩に背を向けていた。


「あーえっと……そうだ、名字だ!名字名前!」

「……そうですが」


間違えてなかった、さすが俺!と自分に酔っている先輩は私の記憶が正しければ不知火会長だ。
横暴だけどカリスマ性があってみんなに慕われていると記憶している。

話すのは初めてだし、別に彼が生徒会長だからって生徒全員を把握しなければならないという義務はないだろう。だから私の名前をすぐに思い出せなくても当然だ。私はそう思うのに、どうして名前を言えただけでそんなに安堵しているのだろう。


「あの……」


じい、と品定めするかのように私を見るその人。その目付きは決していやらしいものではないが、居心地の悪いものを感じる。顎に手を当てて考え込みながら下から上まで見定めた感想は、


「普通だな」


ぽかん、と口を開いてしまった私なんてお構いなしに、不知火会長は大きなひとりごとをぶつぶつと漏らす。


「女でもやっぱりちがうんだな……月子は少し落ち着きがないが見た目はああだし、こいつはまあ……」


可もなく不可もなく。平凡。夜久さんと比べたら相当劣る。
おそらくそう言いたいのだろう。直接的には言われてないにしろ、普通と言われてその次に彼女の名前なんて出されたら普通そう思ってしまう。


「すみません、生徒会長さん」

「なんだ?」

「失礼ですが、喧嘩売ってるんですか?」


私だって別に手が出る喧嘩がしたいわけではない。というか出来ないし。
そうじゃなくて、我慢できなかっただけだ。それは紛れもない事実かもしれないが、言われっぱなしじゃ悔しいし、余計なお世話だ。
睨みつける私の顔を見て、不知火会長は「あ、いや」と言葉を濁らせた。私は引かずに彼を見上げ続ける。申し訳なさそうな顔をして、不知火会長は口を開いた。


「そう聞こえたのなら悪かった。いや、用件は他にあるんだ」


フォローも何もないってことは、やっぱりあの「普通」は容姿のことだったんだな。失礼すぎるこの人も。

今まで数回しか見たことなかった不知火会長が、今や私の中で近付きたくない人のランキング上位に浮上していた。
早く立ち去りたい。そんなオーラを出しながら何ですか、と問えば不知火会長はなぜか笑顔になった。


「お前を生徒会に任命する!」


何言ってるんだこの人。


「まだ役職は決まってないんだが、それは後で決めればいいだろ。とりあえず生徒会室に……」

「ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても意味分からないんですが、とりあえずお断りします」


控えめに言ったのがまずかったのか、不知火会長はその場でにやりと歯を見せた。
そして教えてやるよ、と低く呟く。


「生徒会長の命令は絶対だ」


くるりと背を向けて歩き出す不知火会長を見ながら、私は逆方向へ向かう体勢を作った。


「そんな俺様ルールには従いませんので、絶対。失礼します」


それは予想外のことだったのか、私が歩き出したと思ったらすごい力で肩を掴まれた。
その必死さにどうしていいか分からなくなるが、逆を言えばどうしてこんなに必死になるのだろう。私を生徒会に入れるなんて、そんなメリットもないことを。


「お前っ……帰るな!これでも頼まれたんだから一度ぐらい……」

「誰にですか」

「あ?」


ぐっと顔を近付ければ不知火会長はたじろいだ。この距離は近いと思うが、今はそんなこと言ってられない。
分かりやすく、私は彼に問う。


「こんなことするように言ったのは、誰ですか?」


その時の私は、きっとひどい笑みだっただろう。


「陽日……先生」


そして冒頭に到るわけである。


「生徒会長、さようなら」


さあ目指すは職員室。待ってろよあのちび先生えええ!!

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