終了のチャイムが鳴り響いたとき、それは授業の終わりと同時に夏休みの始まりの合図でもあった。
はしゃぐクラスメートを横目に、私も内心で小躍り状態。
長かった試験も、返却もすべて終えた今日。私は晴れ渡っている空を見上げ、微笑む。
今夜は、星月先生と星を見に行くのだ。
どっぷりと日が暮れるまで時間を潰してから、私は保健室に向かった。
夏なのに辺りはもう暗くて、それが余計に夜遅くということを際立たせる。
ましてその待ち合わせの相手が教師となれば、ちょっと少女漫画みたいな展開ではないか。あはは。
「待たせたな」
「っはいいいい!!」
思わずびくりと背筋を正してしまった。
そんなに驚かせたか?、と背後にいた星月先生を振り返って、私は勢いよく首を振った。
いえ、ちょっとニヤニヤしていたときの登場だったのでびっくりしただけです。あれ、結局同じことじゃないか。
「退屈させて悪かったな」
「いえ、全然待ちますよ」
星月先生相手だったら、と続けて言った後で私はやってしまったと思う。
それじゃ星月先生が特別だって言ってるようなものじゃないか。
「直獅や郁だったら、そんな気兼ねいらないってことか?」
くすくす笑いながら私の前を歩く。そんな背中を慌てて追いかけて、私は弁解するように隣に並んだ。
「そもそも、あの二人だったら遅れるなんてことなさそうですよね」
ああ見えて陽日先生は約束を守りそうだし。というか自分が張り切っちゃって早く来てそうだ。
水嶋先生はサボりの口実ラッキーとか思ってそう。それか単純にあの人なら「女の子を待たせるわけないじゃない」とか言って株を上げようとしてるに違いない。
「じゃあやっぱり星月先生はその性格で得してるってことですね」
「どういう意味だ?」
「なんか、怒れないですもん」
簡単にはぐらかされるような気もするし、完璧に見えるから大人という印象が拭えない。
友達感覚で接せられないというのが近いかもしれない。陽日先生も水嶋先生も、先生という前提はあっても許してもらえるような甘えがある。
「名字にそんなこと言われるとはな」
「あ、生意気言ってすみませんでした」
慌てて口を噤めば、くすりと漏れた笑み。白衣のポケットに突っ込まれていた手が伸びて、私の頭をくしゃりと撫でた。
目の前がチカチカする。星月先生は、眩しい存在だ。
陽日先生と水嶋先生ともちがう。気安い対応で接しても怒らないけど、やっぱり先生という立場が大きい。優しくて、頼りになって、一緒にいて楽しい先生。
「俺は気にしてないから、お前も気にするな」
皆が星月先生を慕う理由が、よく分かる。