「月子ちゃん、本当に今日で大丈夫だった?」

「うん。平気だよ!」


月子ちゃんが笑って言う。
そっか、と私も笑い返した。

今日は、初めて二人で出掛ける日だ。


「たくさん買っちゃうかも……」

「月子ちゃんは何でも似合うからなぁ。うらやましい」

「もう、名前ちゃんったら。あ、あのスカート可愛い!」


気分は完全に女の子だよこれ。こういう雰囲気久しぶりだな、と私はそれなりに満喫していた。

月子ちゃんはあれよこれよと言う間に服を手にしていて、「それ全部買うの?」と私が聞けばにっこりと微笑んで私に半分寄越してきた。「名前ちゃんに似合うと思って!」ああ可愛いなぁ。








「疲れたー……」

「ふふ。名前ちゃんとの買い物、すごく楽しい」


全然疲れた様子のない月子ちゃんを見て、私は急に恥ずかしくなって姿勢を正す。
こういう仕草からいい女ってのは決まるんだな。


「この後どうする?」

「うーん……荷物も多くなってきたしね」


片手に収まるぐらいだが、それなりに大きい紙袋。もうすでにお財布も軽くなってきていたので、私達はどうしようかと顔を見合わせた。

冷たいミルクティーで喉を潤しながら、私はふと気になっていた疑問が浮かんだ。良い機会だと思って、身を乗りだす。


「月子ちゃん、誰と付き合ってるの?」


私の問いに、月子ちゃんが咽せていた。


「な、なんで前提なの!?」

「だって、普通そう思うでしょ?あれだけ好かれてれば」


顔を真っ赤にした月子ちゃんに私はニヤニヤと笑みを浮かべる。まだ分からない。だけど、彼女の反応を見ているだけで楽しくなってしまう。


「私が思うに、宮地くんあたりかなーって思ってるんだけど。あの仏頂面が、月子ちゃんと接してるときは緩んでる気がするし」

「そんなことないよ」


苦笑いしている月子ちゃんに向かってでも、と言いかけて私は思い出してしまった。
この前羊達と話してたとき、推測でそんなこと言っちゃいけないって私が言ったんじゃないか。


「ご、ごめん。でも、本当にそう言う風に見えて……」

「宮地くん、いつも難しそうな顔してるから。少しでも眉間の皺がなくなればいいなとは思うよ」


罰が悪そうな私に笑いかけてくれる月子ちゃんは、気分を害したわけではないらしい。
そんな心の深さをすごいなぁと思っていたら、月子ちゃんはこの話題を続けてくれた。


「私、みんなのこと好きだよ」


それは、彼女の本心だった。裏を返せば、特別な人はいないということだ。
果たして本当にそうなのだろうか。笑みを浮かべながら私は月子ちゃんを詮索するように覗きこむ。


「そうなの?」

「……まだ、分からないけど」


ぷいっと顔を逸らした彼女の頬は赤く染まっていた。これは恋する女の子の顔だ。
私はテンションが上がってしまう。誰だろう、学園のマドンナが気にしている相手とは。


「え、やっぱり幼なじみ?それとも部活で?生徒会ってのも有り得るね。……もしかして、先生?」

「もう!名前ちゃん!」


ついに怒鳴られてしまった。
だけどその声は微笑ましいもので、私の笑いは止まらなかった。


「名前ちゃんは、好きな人いないの?」


月子ちゃんの言葉に、どくんっと心臓が動いたような気がした。
私が親しくなった人、それはイコールで皆月子ちゃんとも繋がっている。

もしも私が誰かを好きになって、その人が月子ちゃんのことを好きだったらどうするのだろう。
諦めたくない。だけど、勝てるわけもない。


「いないよ」


それは事実。今はすんなりと答えられるけど、もしも好きな人が出来たとき、私は彼女にちゃんと伝えることができるのだろうか。


「そっか」


うん、と頷いて私は意味もなく氷を掻き混ぜた。溶けて水になっていく様子をゆっくりと見守って、私は顔を上げる。
月子ちゃんが相手でも、私は負けたくない。そう、きっとずっと、心の中で思っていたのだ。
勝てないのは分かってる。でも、諦めるなんて絶対いやだから。


「応援してるから」

「うん、私も」


今はまだ、それだけで。
もしもの時は、その時考えればいい。
せっかくの時間を憂鬱に過ごすのなんてもったいない。

私は水っぽい液体を飲み込んで、月子ちゃんのカップに目を向けた。彼女の手元の中身も空であることを確認してから、私は立ち上がった。


「月子ちゃん、私まだ買い足りない」


私の考えを読み取ったのか、月子ちゃんはしょうがないなぁと言った顔で荷物を持ち上げた。


「大丈夫?」

「余裕だよ。あ、記念にお揃いの何か買わない?」


月子ちゃんが「それいい!」と花が咲いたように笑うから、私も釣られて笑っていた。

二人でまた歩き出す。
並んで歩く勇気。せっかく隣に立てたのに、私はまた自ら問題を抱えようとしている。


「星とか、月のアクセサリーとかもいいかもね」

「あ、このお店かわいいよ!」


前向きに、常に上り続けるしかないのかもしれない。
月子ちゃんの幸せを願えるように。
そして、私自身が頑張れるように。


今はまだ、その道の途中。


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