彼らの姿を見つけてしまった私は、その場で足が竦んでしまった。
どうしてこんな見えやすいところで立ち止まってしまったのだろう。あ、と月子ちゃんの声がここまで届いた。
「名前ちゃん!」
その声に、こちらを振り返ったのは金久保先輩と宮地くん。軽く会釈をするが、それだけでは逃がしてくれないらしい。
「よかったら、名字さんも一緒に話さない?」
少し先から笑いかけてくれる金久保先輩。それに大きく頷いて、月子ちゃんが私を招くように手を振った。仏頂面でこちらを見ている宮地くんはもう気にしない。
私はにへら、と情けない笑みを投げ掛けるも、それは金久保先輩と月子ちゃんの微笑みには敵わなかった。
彼らの後ろから、まだ一言も声を聞いていない姿。
私を見かけたとき、梓くんは彼らから見えない場所で目を見開いていた。表情はすぐに戻ったから、おそらく無意識だったのだろう。
それでも、彼らしくないと気付かせるには十分すぎた。
「お邪魔じゃないんですか?」
「もう用事は済んだからね」
控えめに聞いたつもりだったのに、私はもうすでにその輪の中へ入ってしまっていた。
これは金久保先輩クオリティなのだろうか。
「本当に?」
月子ちゃんへ確認の目で問いかける。うん、と彼女は笑った。
「インターハイについての打ち合わせだったの。それが終わって、今はみんなで話してたんだよ」
ああ完全に逃げられないじゃないかこれ。
悪意のない笑みを向けられているから余計に質が悪い。
宮地くんは相変わらず威圧感あるし、梓くんに到っては私と目も合わせてくれない。それでも自然に避けてるのだから上手いものだ。
「弓道部、大活躍だもんね」
今年の弓道部は頑張っている、その言葉通りインターハイへの出場を手にした弓道部はさらにやる気を出して練習していると聞いていた。
女子が一人しかない月子ちゃんだって個人の部で予選を見事通過した。彼女は本当に頑張り屋なんだって、私はようやく知ることができた。
「応援してる」
練習風景も見たことない私だけど、彼らを見ていれば分かる。その努力が実ってほしい、と私は切に願う。
「ありがとう」
「頑張るね!」
月子ちゃんと金久保先輩の笑みは、どこか安心させてくれる穏やかなもの。そのまっすぐさに照れてしまう私は、ちらりと宮地くんに目を移した。
「ああ」
酌み取ったのか、頷いてくれる宮地くん。私はここで自分の首を絞めてしまったことにようやく気付いてしまった。これでは、誰かが彼に促すだろう。
「あ、梓くん」
話を振るのは怖い。だけど、
「期待のルーキーなんでしょ?すごい、ね」
私もいつも通りじゃないと、彼に勘付かれてしまうのではないだろうか。
ちゃんと笑えてるか分からない顔で、あの日以来はじめて梓くんと目を合わせた。
「そんなことありませんよ」
そう言って、笑う。それはいつもの梓くん。
きっと誰も気付かない。そう、私以外は。