教室にいるより外にいた方が断然良い。
内心呼び出されたことを嬉しく思いながら職員室を訪れた。


「名字、本当にいいのか?」

「構いません」


何度も言ってるじゃないですか、と私が言っても陽日先生は頑なに首を振らなかった。
「でもなぁ……!」と額を押さえて考え込む時間をあとどれくらい与えればいいのだろう。激しく面倒臭い。だけど帰してくれない陽日先生はあのな、ともう一度言った。


「一人じゃ寂しいだろ!せっかくグループで調べていいって言ってるのに!」

「テーマが被らなければ一人でやってもいいと言ったのは陽日先生だと思いますが……」

「そんなの建前に決まってんだろ!」

「はあ。大丈夫ですよ、一人でやる人もいますって」

「お前のクラスでは、名字だけだぞ」

「じゃあ私がその貴重な人材ってことで」


頑張りますからもう帰っていいですか、と聞けば陽日先生が暴れ出した。
ちょ、なにこの人……!


「俺はなぁっ、お前のことを心配して……!」

「ええっと、何のことですか?」


うう、と泣き始める陽日先生を宥めるようにそう言えば、なぜか陽日先生はパッと顔を上げた。真顔で私の顔を見つめて、あれ、といった様子で呟く。


「友達、いるのか」


ああそういうことか。


「いないって自覚してますよ」


きょとん、と陽日先生の大きな目が瞬きをして、すぐにまた男泣き。
私の名を呼びながら肩をがくがくと前後に揺らした。もういいかげんにしてください!


「せ、せんせい……死にます死にそうギブギブ!」


職員室の真ん中でコントかこれは。恥ずかしい。
ようやく大人しくなった陽日先生はぽつりと「青春しろよ……」と嘆いていた。
そんないまどき。


「どんな期待してるんですか」

「お前も夜久みたいに交流を広げろ!部活動……はやってないよな?委員会は?」

「……入って、ません」

「そうか……うーん」


陽日先生の目には映っていないだろうが、私の目はきっと曇っていただろう。
その名前が出ただけで頭の中がぼんやりとしてくる。
彼女と私はちがう。言い切ってやりたいのに、言えない。

陽日先生、たとえ私が彼女と同じようにしても報われないんですよ。


「分かった、俺に任せろ!」

「別にいいです」


胸を張る陽日先生に一礼して、私は職員室を出た。





選択で陽日先生の授業を取ってるってことで。
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